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Ep.104 悪女皇女はモテモテ?です!
マリンちゃんが退学になり私が正式な聖霊の巫女として発表されてから早数ヶ月。私の近況を簡潔に言わせて貰うと、所謂モテ期と言う奴だと思う。
「全く焦らしてくれるね、やっと見付けたよ。皇女とは言えまだまだ未熟で自国でも王位継承権はないか弱い少女の貴女が、学院一美しく麗しく完璧なこの僕の妻になれると言うのにどうして迷っているんだい?」
「迷ってはおりませんわ。既に一番最初に婚約のお話を頂いた時点で丁重にお断り致しましたし、何度来ていただいても私の一存で決められる問題ではございませんのでお引き取り下さいませ」
「そうやってつれない態度で僕の気を引いているつもりかい?全く、困ったお姫様だね」
(いやいやいや、困ってるのはいくらフッてもしつこく毎日つけ回してくる先輩に校舎裏で壁際に追い込まれてる私なんですけど!?)
こうして毎日のように様々な男性から愛を囁かれたり、デートに誘われたり、しまいには顔馴染みじゃないご令嬢達からもお茶会に誘われまくっているのだ。皆さん熱烈で一回二回お断りしても退いてくれないのだけど、中でも今私に迫ってきているこの先輩はメンタルの強さが桁違いなのである。
それにしても油断した……!こう言うしつこい人も多いから最近は人気がない場所は極力避けてたのに、まさか掃除のごみ捨てに出た一瞬の隙に建物の裏に引き込まれるなんて。
ここ1ヶ月ずーーーっと私に毎日毎日毎日飽きもせず求婚に来るこの先輩はスプリングの高位貴族で、自信満々なだけあり前髪をかきあげる姿にも色気が溢れる美男子ではある。でも、いくらこちらの意思を伝えても話が通じない相手は結婚云々差し置いても無理なものは無理です!お近づきになりたくないです!!
とは言え、自国の民ならともかく他国の高位貴族が相手じゃ、下手に突き飛ばして逃げる訳にもいかない。不安を誤魔化すように抱えていた鞄をぎゅっと抱くと、中から妖精達がひょっこり顔を出した。数人が鞄から飛び出し、私と先輩の周りを飛び回る。
「ひめさまこまってる?」
「こまってるねー、いやなのにしつこくするのメッだよ」
「あいつやっちゃう?」
「やっつけちゃう?」
「きゅっ☆としちゃう?」
「ーっ!?」
って、可愛い顔して何か物騒なこと言ってるー!!!
駄目だよ!の意思を伝えようと先輩の背後で目を光らせてる妖精達に向かってジェスチャーするけど伝わらず、今にも攻撃をけしかけそうな感じである。先輩逃げてーっ!と言いたいけど、一般人にはあの子達の姿すら見えないから彼は狙われてることにすら気づいていない。
(ど、どうしよう……!聖霊の一種って言っても妖精は下位らしいし、あんなに小さいから万一攻撃しちゃってもそんな大惨事にはならないと思うけど……!)
「そんな顔をしてどうしたんだい?僕には勝らないまでも、僕の隣に立つことを許される程度には君も美しい。そんな美少女に憂いを帯びた表情は似合わないよ。そうだ、これからお茶でもどうだい?この美しい僕を独占して顔をじっくり見ることが出来る栄誉をプレゼントしよう」
「いいえ、この後先約もございますのでご遠慮致しますわ」
「またそうやって僕の気を引こうとして……、いい加減に素直になったらどうだい?今素直に僕の誘いを受け入れれば、これまでの態度はなかったことにしてあげるよ。僕は学内のご令嬢達皆が憧れる理想の紳士だから……ね!?」
「紳士を自称するなら、嫌がる女性を力付くで足止めするような真似をするものじゃない。チャールズ・バリストン、フローラから離れて貰おうか」
「いだだだだだっ!ら、ライト・フェニックス……!」
ヒュッと一瞬影が射して辺りが暗くなったと思ったら、次の瞬間現れたライトが先輩の腕を捻りあげていた。
ホッと胸を撫で下ろしつつライトの背中に逃げ込むと、頭をぽんと叩かれて『何ヤバイ奴に捕まってんだよ、ドジ』と囁かれた。うぅ、すみません……!
「痛いじゃないか、乱暴な!新生徒会長に選ばれたからと言って、愛し合う恋人の会瀬を邪魔するのは無粋じゃないのかい!?大体どこから現れたんだ!」
手を離すなりキィィィィっとハンカチでも食い千切りそうな勢いで突っ掛かってくる先輩の姿に、腕組みしたライトが鼻を鳴らした。
「求婚も断られて置いて何を言い出すかと思えば……。俺はただ、うちの役員が会議前になっても現れないので探しに来ただけだ。何分急な代替わりだったのでやることが目白押しでな。例えば、聖霊の巫女を狙う者を炙り出す為の、生徒達の素行調査とか……」
わざとらしく勿体振った態度のライトから出た“素行調査”の単語に先輩の肩がピクッと跳ねた。分が悪いとわかったらしく、長い黄緑のウェーブヘアを片手でバサッと払いながら先輩は踵を返して去っていった。『僕は諦めないからな!』と言う捨て台詞も忘れずに。
「二人ともーっ、大丈夫だったーっ!?」
先輩が去ったのと入れ替わるように息を切らしたクォーツと不機嫌な顔をしたフライが駆け寄ってきた。私達の無事を確かめて一息ついたクォーツが、ビシッとライトを指差す。
「窓からたまたまフローラを見つけて助けに行ったのはいいんだけどさ、いきなり三階の窓から飛び降りるの止めてよ。びっくりしたでしょ!?」
「えっ!と、飛び降りたの!?三階から!?クッションも足場も無しで!!?」
「まあな。あからさまに危険だったから最短距離を選んだだけだろ?このくらいの高さどうってことない」
「そう言う問題じゃないでしょ!他の生徒達に見られたらどう言い訳するのさ!?今のライトは会長として一般生徒の手本になる立場なんだからね!?」
「全くだね。生徒会長になったって言うのに、自分の立ち居振舞いを客観的に見られないなんて嘆かわしいったらない」
口々にクォーツとフライにお説教されたライトの額にピキッと血管筋が浮かんだ。
「あのな……そもそも会長になったのはお前達のせいだろうが!!!」
ライトのその叫びに、まぁそりゃそうだと苦笑した。
先日、マリンちゃん一派でかなり悪どく横柄な振る舞いをしていたケヴィン前生徒会長が退学になった直後。私達は全員まとめて学院長先生に呼び出された。
「突然の退学で生徒会に多く欠員が出てしまったが、すぐに次の役員を補充してまた揉めても困るのでしばらくは現役員の中から新たな会長を決めて働いて貰おうと思う。と、言うことで、君達の代のリーダー的存在はどなたかな?」
「「「「ライト(様)ですね」」」」
「えっ、俺!?」
「はっはっは、満場一致じゃな」
と、言うわけで全員の指が一斉にライトを指したので、現在ライトがケヴィン前会長が堕落させてしまった生徒会を立て直してくれている訳なのです。もちろん私達もサポートしてるし、学院長も信頼出来る新しい役員の生徒を探してくれてるけどね。
「とにかく行こうぜ、もう会議が始まる」
「そうだね、皆待ってるかも」
「フローラ、怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫!でも、迷惑かけちゃってごめんなさい。この怒涛のお誘いラッシュが早く収まってくれるといいんだけど……」
「ま、それは難しいだろうね。今の君は身分云々を差し引いても、大陸中で一番稀有で特別な女の子だから」
フライの言葉に撃沈した。いや、自分でも今更ながらとんでもない能力に目覚めちゃったなと実感はしてるんだけどね!?単に治癒術だけじゃなく、まだまだ出来る事がたくさんあるみたいだし。でもそれで今まで顔も知らなかったような人達がいきなり群がってくるのってなんか、ねぇ? 最近よく、怪しい視線も感じるし……。
「はぁ、せめてしつこい求婚だけでも無くなってくれればなぁ……」
「それだけなら、抑止する方法は無くはないよ?」
「本当!?」
「まぁ、ね。でも、僕にその“対策”を任せた場合、どんなやり方であっても後からの苦情は受け付けないけど……いい?」
「へっ!?」
「おい馬鹿っ、顔近づけ過ぎだ!」
私の顎をくいっと持ち上げたフライの切れ長の目が鋭く光る。中学生とは思えない言い様のない色気にゾクッとしたけど、ライトの怒鳴り声ではっとなった。急いで離れた私達を見て、ライトとクォーツもまた歩き出す。
「ご、ご遠慮しておきます……!」
「……そう、残念。でも、君にあまりにも危険が及ぶ場合は僕らも黙ってないからね?」
「ーっ!ふふ、ありがとう」
「何笑ってるのさ」
つい笑ってしまった私にフライが拗ねるけど、だって嬉しくて。
「ごめんなさい、フライがこんなに心配してくれてるなんて思わなかったから、嬉しくて」
初めはあんっっっなに嫌われてたのになぁ。簀巻きにしてでも友達になろうと頑張ったあの日々が懐かしい。
「心配するに決まってるでしょ。……きなんだから」
カシャッ
「えっ?今……」
フライの呟きに丁度重なるように聞こえた妙な音。今のって……
「……っ、いや、何でもない。早く行こう、遅れるよ」
「あっ、待ってーっ!」
何故か少し悔しそうにくしゃりと前髪をかきあげたフライが、先に行った二人を追いかけるように足早に離れていく。それを慌てて追いつつ、ちらっと誰も居ない裏庭を見た。
(なんか今、カメラのシャッター音がしたと思ったんだけどな……)
“カメラ”と言えばあのキャラだけど、ここ中等科だしヒロインも退学したし、まさか……ね。
~Ep.104 悪女皇女はモテモテ?です!~
『フローラ・ミストラル14歳。人生初のモテ期ですが、モテモテに不馴れ過ぎて毎日ヘトヘトです』
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