Ep.105 転生皇女はギャップに弱い

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Ep.105 転生皇女はギャップに弱い

「では、本日の議題は以上。解散!」  会長であるライトの一声で、一斉に生徒達は会議室から出ていった。いつもの面々だけになった途端、ネクタイを緩めたライトがぐったりと机に突っ伏す。 (あらら、ライトも皆もお疲れだなぁ。これは久々にあれの出番かな?)  こっそり会議室から隣接した生徒会室備え付けのキッチンに移動。レインにも手伝って貰いながらお茶っ葉とレモン、ミルクと、後は菓子皿ーなんて用意してる後ろから、皆の雑談も少しだけど聞こえる。この平和な感じ、落ち着くなぁ。  ……隣で雑談してる皆はあんま平和じゃ なさそうだけど。 「はぁ、今日は長引いたな……疲れた」 「さっき三階から飛び降りて余計な体力使ったからじゃないの、脳筋から体力を取ったら何も残らないよ」 「ライト昔っから体力馬鹿だもんねー」 「お前等、少しは労うとか心配するとか無いのか……!」  珍しく吐いた弱音をフライとクォーツに一蹴されたライトがご機嫌斜めになると、フライが『大体さぁ』とため息を溢した。 「第一、あの距離でよくすぐに絡まれていたのがフローラだって判断出来たものだよね。あんな登場の仕方して人違いだったらとんだ笑い者だよ?」 「いやぁ見間違いは無いでしょ。ライト普段から会議の時とかフローラのこと見つめ過ぎ……いったぁ!!!」 「クォーツ、ちょっと黙っとけ」 「同感、今のは頂けないね」 「お茶が入ったから休憩にしよー……って、何事!?」  用意が整ったから三人を呼びに来たら、何故かクォーツがお腹を抱えて地面に突っ伏していた。 「いや……っ、からかったのは悪かったけど、2人同時に左右からお腹にひじ打ちとか酷い……!」 「本当に何があったのかわかんないけどクォーツしっかりしてーっ!クッキー食べてーっ!!」  お茶請けに出していた手作りクッキーを嘆いてるクォーツの口に突っ込む。その途端に淡い光が舞い、飲み込むのと同時にクォーツも立ち上がった。 「痛みが消えてる……!これが噂に聞いてたフローラのお菓子に掛かる聖霊の加護?」  驚いた後キラキラした目を向けてくるクォーツの問いに頷いた。  そうなのだ、実は先日女子寮の近くで膝を擦りむいて泣いていた初等科の制服を着たコーラルピンクの髪の女の子。その子に元気付けようと余ってた手作りマフィンをあげたら、食べた瞬間傷が治ってしまったのだ。その事実を知ったフローレンス教会の人が調査をした所、私の手作りお菓子・及び手料理にも聖霊の巫女の癒しの力が込められていることが発覚したので。 (そんなわけで最近は市街の病院とかに届けるお菓子作りが忙しかった上に、私の作ったお菓子は質のいい魔力が入ってるからって冷ましてる側から妖精ちゃん達がつまみ食いしちゃうから皆に差し入れする分が最近無かったなんて言えない。聖霊が見えてない皆には、言えない……!)  背後の私の鞄からクッキーを狙って顔を出している妖精(みんな)をサッと背中に隠した。見えてないとしてもなんか、ね? 「ま、まぁその話は置いといてお茶にしよ!今日は特に会議長かったし、皆疲れたでしょ?」  そう着席を促すと、皆もなんだかんだクッキーをつまみ始める。ほら、皆やっぱお腹空いてたんじゃない。なんてクスリと笑いながらカーテンを開くと中等科の外れにある純白の時計台が見えた。 「それにしてもあの時計台、本当に破壊しちゃうの?」 「あぁ、さっきの会議の話か?そりゃそうさ、芯となる柱にもうガタが来ている以上いつ倒壊するかわからないからな」 「まだ綺麗なのに、なんだか可哀想」  時計台を指差しながら呟けば、ライトも皆も仕方ないさと苦笑する。 「建物自体は真新しく見えるのかもしれないがそれは上塗りを繰り返せた外見だけだ。あの塔を建てた本来の目的だった緊急用のフローレンス教会本部に繋がる転移魔法陣も先日の事件で多くの人間に存在を知られてしまった以上、今まで通りに使用するのは危険だしな。陣自体は解除し新たな場所に作り直すにせよ、あの時計台は安全の為には解体した方がいい」  会長として生徒の安全を考慮した決断なんだろう。苦笑しながらも、ライトの声に迷いはなかった。 「ただ、聖なる力で護られている為にあの時計台の解体にも同じ聖なる魔力が必要らしいからな。今すぐに……とは行かないだろう。フローレンス教会から呼んだ担当者が来るまではあの辺りは一般生徒の立ち入りは一切禁止。もちろん侵入防止の結界も張られているので、生徒会役員と言えどお前達も無闇に近づかないように」  さっきまでの弄られキャラとは一転、しっかりした会長らしいその言葉に皆も頷いた。……のは、いいんだけどね? 「話が綺麗にまとまった所悪いんだけど……、ライト、何してるの?」  そう問いかけると、こっそりと残っていた最後の一枚のクッキーをビニールに隠そうとしていたライトの手が止まった。全員からじぃっと見られたライトが、拗ねたような恥ずかしがるような表情でふいっと顔を逸らす。 「まさか持ち帰る気?お菓子なら寮にいくらでも用意があるでしょ?」 「……っ、俺はフローラが焼いた奴が良いんだよ!だって、不思議な効力があるって発覚してからフローラの作った菓子の差し入れ全然無いしさ。だから、食べ切っちまうのがどうにもなんか、惜しくて……」 「……っ!」  自信家で勝ち気でハイスペックなライトの子供みたいな一面と言うギャップに不覚にもキュンとした。やだ、可愛い……! (そんなに食べたいならお姉さんいくらでも頑張って作ってくるよーっ!) 「わっ!なっ、なんだよ急に!」 「なっ……!ちょっと!抱きつくなんて認めないからね!?」 「あっはははははっ、いやぁ最高!フローラが居ると退屈しないよねぇホント」 「この鈍さは皇女としては流石に心配になるわね。一足先に自覚されたフライ様が不憫ったらないわ」  つい母性をくすぐられて拗ねているライトを抱き締めようとしたらライトには逃げられ、フライに羽交い締めで止められ、クォーツには爆笑され、しまいにレインにもため息をつかれた。解せない、心底解せない。  皆、ギャップ萌えの破壊力をわかってはい!  パシャッ! 「……っ!」  ほっぺたをハムスター並みに膨らませていたら、また聞こえた微かな機械音。ハッとして窓に駆け寄るけど、外にはやっぱり、誰も居なかった。    ~Ep.105 転生皇女はギャップに弱い~  『返ってきた平穏に、謎の眼差しが見え隠れ』
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