【相談内容】神守坂神社の神様は……

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【相談内容】神守坂神社の神様は……

 私の名前は北野あかり。19歳の短大生。  小学校四年生までは原因不明の体調不良が続いて、入退院を繰り返していた。  体育はいつも見学だった。他の子がプールで楽しそうに泳ぐのを、プールサイドで見ていることしかできなかった。  学校に行っても、保健室で過ごすことが多かった。  このままでは高校生になるまで生きられないだろうと総合病院で言われた。どこに行っても、どんな検査をしても、私の体調不良の原因を突きとめることはできなかった。  だから両親と私は藁にもすがる思いで、神守坂神社にお願いしに行った。  地元ではちょっと有名な神社らしい。すごい昔からあって、原因不明の病気や怪我を治した逸話も残っているそうだ。  父親の背におぶさって、何十段もある階段を上った。神様にお願いすることしかもう、私たちには残されていなかったから。  そこで出会ったのが白い羽織に、同じ白の袴をはいた、ものすごく大柄な年配の神主さんだった。神守坂神社で一番偉い人らしい。  おじいさんは私の病気の話を聞くと「承知しました」と笑ってくれた。  普通ならば神様に仕える人しか入ることを許されない場所にも案内してくれて、お祈りをしてくれた。  長いお祈りの後でおじいさんは言った。 「これで大丈夫。ここの神様はね、とてもすごい力を持っているんだよ。邪なものを寄せつけず、災いを祓ってくれる。きっとあなたの病も、ここを守る神様が祓ってくれますよ」  と――  その翌日から私の体調はみるみるよくなった。それまでのことが全部ウソだったみたいに、だ。  走っても息切れすることもない。長い時間外にいてもめまいも耳鳴りもしなかった。食べた物も吐かなくなった。  ガリガリに痩せて骨と皮しかなかった私の体は、普通の女の子と同じくらいになった。  このことをきっかけに、私は困りごとがあるときは神守坂神社のおじいさんに相談しに行くようになった。  おじいさんはいつもニコニコと笑って、私の相談に乗ってくれた。  好きな男の子ができたときなんかは、もっと自信を持って積極的に行きなさいなんてアドバイスまでくれた。  結果は撃沈だったけど、失恋して泣く私の隣でおじいさんのほうがわんわん声をあげて泣いていたのは今となってはいい思い出だ。  そんな神守坂神社のおじいさんに今回私が相談したのは、暴漢に襲われかけたことだ。  アルバイトからの帰り道、私が自転車で走っていると二人組の男に車で追い回されたことだ。  細い路地に入ってなんとか振り切ることはできたけれど、次のアルバイトのときにも同じ男たちに追い回された。しかも今度はバイクで、だ。  当然のことながら、自転車よりもバイクのほうが早い。私の自転車の前と後ろについて、挟み撃ちにされた。  急にブレーキを踏まれて前のバイクがとまるから、よけようとして自転車ごと倒れてしまう。そこに後ろについていた男がやってきて、私の体に圧し掛かった。  恐ろしさのあまり声が出ない。そこへ前を走っていた男もやってきて、暗がりに連れ込まれた。  抵抗しなければ乱暴される。だけど抵抗したら殺される可能性もある。怖い。すごく怖い。どうしていいのかわからない。  ひとりに抑え込まれ、ひとりには口を塞がれた。上着に男の手がかかる。そのとき白い影が走った。 「ギャアッ!」  と私の口を塞いでいた男が手を離した。 「どうしたっ!」  私の体を抑え込んでいた男が顔をあげたとき、白い影がまた目の前をびゅんっと横切った。 「うわあっ!」  抑え込まれていた腕が自由になる。力の限り手をつっぱねて、男の体を突き飛ばした。 「ま、待てっ!」  一目散に逃げた。自転車を置き去りにして、とにかく近くの家に助けを求めた。警察に通報してもらって、現場に戻ったときにはもう、男たちの姿も、置き去りにした自転車も、あとかたもなく消えていた。  その日はパトカーで家まで送ってもらった。 「今日はしっかりパトロールしますから、安心して休んでください」  そう言われたけれど、寝ることなんてできなかった。  窓からそっと外を伺う。パトカーの赤いランプが一時間起きに私のアパート前を通り過ぎていく。  窓際でウトウトした翌日の昼ごろに、私はやっと外へ出た。そこで目を見はった。なくなった自転車がアパートに置いてあったからだ。自転車のカゴには白い紙が入っていた。恐る恐る開くと、パソコンの文字で『次は必ずやってやる』と書かれていた。  急いで警察へ駆け込んだ。警察はパトロールを続けますと言ってくれた。だけど安心できなくて、私はおじいさんに会いに行った。  神様が助けてくれるかはわからない。  だけど、信じる者は救われるって言うし。  それにおじいさんに昔教わったから。神守坂神社の神様は『邪を寄せつけず、災いを祓ってくれる』って。  襲われたことを打ち明けた私の頭を、おじいさんは優しくなでてくれた。 「よくぞ相談してくれたね、あかりちゃん。君の相談に乗ってくれそうな人に心当たりがあるから。そうだ、今日の夕方6時に住んでいるアパートから一番近いコンビニへ行きなさい。いいね、夕方の6時だよ」 「はい」  神守坂神社から一旦家に戻って、約束の時間を待った。真夏の昼間は長いから、6時はまだ十分明るい。これならひとりで歩いても怖くはない。  午後の5時半に私は家を出た。おじいさんの言いつけを守るために小銭入れだけを持って、一番近いコンビニへ向かった。
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