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部屋から出て、早苗は塾があると急いで帰って行った。
このはは、店の中をゆっくりと歩いた。
規約には一度に貸し出せる本は三冊まで。
期限は一週間。
読み切れなかった場合、延長は可能、電話でも受け付ける。
ただし、店主がそれを認めた場合のみ…と書いてあった。
又貸しは禁止、貸し出し禁止の本に関しては、店の中で読む事を許可してもらう。
これも店主の許可が必要…ただし、店主が不在の際には、九官鳥の二方に聞く事。
(これ、意味分かんないよなぁ。だって九官鳥だよ?頭良いって聞くけど、許可とかされても真に受けていいのかな?)
考えながら三冊を選んだ。
高くて買えないと諦めた画集。
古い太宰治の小説。
恥ずかしくて買えなかった官能小説。
(あの人にこれを持って行くのも、恥ずかしい気もするけど……。)
少しの抵抗と、羞恥心に読みたい気持ちが勝り、受付に持って行った。
「三冊ですね。カードをお預かりします。これは綺麗な画集です。細かな所に注目されるとよろしいですよ。こちらは王道ですね。素晴らしい選択です。
これはまた、良い作品を選ばれましたね。どんな映像を見るよりも想像力を掻き立てられる素晴らしい作品です。では、期限は一週間です。
カードと、本です。入れ物はございますか?」
淡々と楽しそうに借りた本のチョイスを褒める。
「鞄に入れていきます。」
答えて、学校の鞄を開けた。
「どうぞ。ありがとうございました。」
一ノ瀬は丁寧にお辞儀をした。
「あの、ここ…話を買うって、本当ですか?」
思い切って聞いてみた。
「はい。確かに買いますが?売りたいお話が御座いますか?」
あっさりと認められて、暫く言葉を失った。
そんなこのはを見て、くすりと笑い、一ノ瀬は続けた。
「買いますが、現金とは限りません。お話を聞いて判断致します。
そこのおばあちゃん達は、話をして、それを売りますが、お茶とお菓子が買い取りの報酬です。良いお話には高級なお茶菓子をお出ししています。
すっかり、居座っておりますが…。」
「聞こえたよ?失礼だね。ちゃんと夕方には帰るでしょう?居座るって言うのはね、泊まって行く事だよ?良いのかい?泊まっても…。」
おばあちゃん達が笑いながら言う。
和室から出て来て靴を履く。
「じゃあ、いっちーにニカちゃん、またね?」
「ばいばい、ニカちゃん。」
「明日ね?」
「おつかれ!バイバイ!」
九官鳥が、おばあちゃん達の声に反応して返事をした。
「にか…ちゃん?」
九官鳥を見て言う。
「ばか!シツレイだ!二方サンと、ヨベ。」
「九官鳥が……。」
このはは呆然とした。
このはに向かい、九官鳥が失礼だと言った。
「すみません。二方さんは好き嫌いが激しい上に、人見知りです。
初対面の方には二方さんと呼ばせないと怒ります。
よろしくお願いしますね。」
一ノ瀬に言われて一応は、納得して店を出た。
結果、何も分からず仕舞いだった。
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