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「それで、絹枝さんは売った事は教えてくれたのね?」
一緒にまほろばに行ってから二日目の昼食。
忙しい早苗はやっと、このはとの昼食の時間を取れた。
図書室で、もうすっかり見慣れた光景。
並ぶ四本の足。
「いいの?委員会でしょ?昨日は。」
有名人の早苗はクラス委員の上、放送委員にも属していた。
放送委員は昼休憩にミーティングと称して、食事をしながら放送室に集まることが多かった。
「毎日はやらないよ?報告聞くの楽しみにしてたんだし…。
このは、今時携帯持ってないんだもの。」
「苦手なのよ。本読んでる最中に鳴ると、集中が切れるのよ。」
「呆れた……。本当に本中心の生活なのね? あの部屋は売られた物が並んでいる。ううん…保管されている。だから会員でなければ入れないし、一人が入っている時には追加で入れない。」
お弁当を食べながら、早苗は言う。
「うん。そうだと思う。おばあちゃんの本はまだ完成ではないみたい。
自分が死んだら読んでほしい、みたいな事を言われた。
端から何冊か読んだけど、ほぼ自伝が多い。メッセージ的なものも多い気がした。」
「幾らで…とかは秘密、なのよね?」
「うん。店主との契約は他者には話さないらしい。お金では売ってないと教えてくれたけど、じゃあ、何で?って考えちゃうよね?
あの、店にいたおばあちゃん達の様にお菓子?」
「う〜ん。食べ物っていう線は強いかもね?食べたら証拠隠滅。」
「嫌な言い方ね?」
くすくす笑い、このはは早苗に言った。
「笑い事じゃないわよ?私が気になっているのは、どうしてそこまでして、素人の、完成もオチもない普通の会話を、買い取ろうとするのかって事。
近所で嫌な噂が立ったとしててよ? その元が、本屋に売った話が曲がってとは、言い切れないでしょ?」
真面目な顔で早苗が言う。
「嫌な噂が立ったの?」
少し心配して、このはは聞いた。
「……全くないわ……。」
二人で顔を見合わせて笑った。
このはには初めての高校での友人が出来た。
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