7/8
520人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
途中まで送ると言ってくれた早苗と二人で、自転車を押しながら歩いていた。 「うちのおばあちゃんの出処と、このはのおばあさんので出処は、同じだった訳だ。 進藤敦恵さん?」 「うん。早苗のおばあさんの同級生で、うちのおばあちゃんとは病院仲間?」 「このはは…読んだのよね?その、進藤さんの本。」 「うん。自伝ぽいかな?人生全部じゃなくて、旦那様が退職されてからのささやかな幸せみたいな内容だった。ページ数も少なくて、余白が多い。 あの部屋の本ね、最低でも50ページはあるの。それが最低の厚さみたい。 だから、短い文章だと、残りは全部余白になる。」 「それ以上はないの?」 「あるよ?こ〜んな分厚いのあった。枚数に上限はないみたい。」 「そんなに分厚いと、自費なら出費はかなりだね?」 呆れた様に早苗が言う。 「でもさぁ、どうして書こうと思うのかな?しかもさっき聞いた話だと、話をして書くのは店の人でしょ?手間じゃない?逆にお金欲しくない?」 このはは疑問を早苗にぶつける。 「確かに…。現金を払わないにしても、お菓子でもお茶でも金額は掛かる。 その上、話を聞く時間、書き取る手間、本にする手間。 やっぱり自費でお金をもらわないと、買い取ってたら儲からないわよね? 破産する!」 「そうでしょ?でも、うちのおばあちゃんは売った、と言ったの。 早苗のおばあさんもね?」 「うん……一円も払ってない。確かに聞いた。しかも、その後で怒られたの。 子供がお金の話なんかするもんじゃないって…。」 「そう…言われてしまうと……人様の経営状況なぞ、どうでも良くなってくるわね?」 このはが言い、苦笑する。 「でもさ、女学校時代の話をわざわざ本にする。素人の本をわざわざ棚に並べる……そこは知りたいのよね。気になる。」 「まぁ、私も写真二枚載せただけで本作るとか…気にはなる。 何より意味が分からない。」 「でしょ? ねぇ、このは…チャンスだよ?」 「チャンス?」 「夏休みの間バイトする訳でしょ?中に入れば、色々話も聞けるかもしれない。常連さんとか、売りに来る人に会う事もあるかも…。」 楽しそうに早苗は言う。 「う……そうだけど、なんか怪しい事してて、それを知ったら危ない目に遭ったりしないかな?」 「常連さんいるじゃない?」 「常連さんもグルとか……?」 顎に片手を当てて、 「ミステリーだね?」 と、楽しそうに早苗は笑い、続けて言う。 「塾ない日は行くし、このはが危ない目に合いそうならいつでも助けに行くよ?友達だもん。それに、このは、本当はバイト、したいでしょ?」 笑顔で言われる。 「やっぱり早苗、男前だわ。バイト頑張るね。何かおばあさんの本で分かったら連絡する。ここでいいよ?気を付けて帰ってね?」 「うん。このはもね?今日はありがとう。お陰で勉強捗ったわ。」 「こちらこそ。明日は余裕持ってテスト受けれそう、早苗、教えるの上手ね? じゃあ、また明日。」 「うん、また明日。バイバ〜イ!」 大きく手を振る早苗と別れて、早苗の小さくなる自転車を見送った。 夏休みまで後、二週間。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!