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途中まで送ると言ってくれた早苗と二人で、自転車を押しながら歩いていた。
「うちのおばあちゃんの出処と、このはのおばあさんので出処は、同じだった訳だ。 進藤敦恵さん?」
「うん。早苗のおばあさんの同級生で、うちのおばあちゃんとは病院仲間?」
「このはは…読んだのよね?その、進藤さんの本。」
「うん。自伝ぽいかな?人生全部じゃなくて、旦那様が退職されてからのささやかな幸せみたいな内容だった。ページ数も少なくて、余白が多い。
あの部屋の本ね、最低でも50ページはあるの。それが最低の厚さみたい。
だから、短い文章だと、残りは全部余白になる。」
「それ以上はないの?」
「あるよ?こ〜んな分厚いのあった。枚数に上限はないみたい。」
「そんなに分厚いと、自費なら出費はかなりだね?」
呆れた様に早苗が言う。
「でもさぁ、どうして書こうと思うのかな?しかもさっき聞いた話だと、話をして書くのは店の人でしょ?手間じゃない?逆にお金欲しくない?」
このはは疑問を早苗にぶつける。
「確かに…。現金を払わないにしても、お菓子でもお茶でも金額は掛かる。
その上、話を聞く時間、書き取る手間、本にする手間。
やっぱり自費でお金をもらわないと、買い取ってたら儲からないわよね?
破産する!」
「そうでしょ?でも、うちのおばあちゃんは売った、と言ったの。
早苗のおばあさんもね?」
「うん……一円も払ってない。確かに聞いた。しかも、その後で怒られたの。
子供がお金の話なんかするもんじゃないって…。」
「そう…言われてしまうと……人様の経営状況なぞ、どうでも良くなってくるわね?」
このはが言い、苦笑する。
「でもさ、女学校時代の話をわざわざ本にする。素人の本をわざわざ棚に並べる……そこは知りたいのよね。気になる。」
「まぁ、私も写真二枚載せただけで本作るとか…気にはなる。
何より意味が分からない。」
「でしょ? ねぇ、このは…チャンスだよ?」
「チャンス?」
「夏休みの間バイトする訳でしょ?中に入れば、色々話も聞けるかもしれない。常連さんとか、売りに来る人に会う事もあるかも…。」
楽しそうに早苗は言う。
「う……そうだけど、なんか怪しい事してて、それを知ったら危ない目に遭ったりしないかな?」
「常連さんいるじゃない?」
「常連さんもグルとか……?」
顎に片手を当てて、
「ミステリーだね?」
と、楽しそうに早苗は笑い、続けて言う。
「塾ない日は行くし、このはが危ない目に合いそうならいつでも助けに行くよ?友達だもん。それに、このは、本当はバイト、したいでしょ?」
笑顔で言われる。
「やっぱり早苗、男前だわ。バイト頑張るね。何かおばあさんの本で分かったら連絡する。ここでいいよ?気を付けて帰ってね?」
「うん。このはもね?今日はありがとう。お陰で勉強捗ったわ。」
「こちらこそ。明日は余裕持ってテスト受けれそう、早苗、教えるの上手ね?
じゃあ、また明日。」
「うん、また明日。バイバ〜イ!」
大きく手を振る早苗と別れて、早苗の小さくなる自転車を見送った。
夏休みまで後、二週間。
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