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親と学校にバイトの許可をもらい、夏休みに入った。 10時開店、30分前には来てねと言われていた。 「9時15分…うん、いい時間。」 事前に聞いていた通り、店と店の間の細い道に入る。 横に凹んだスペースがある。 畳、二畳程のスペース…そこに自転車を停める。 そして、気を引き締めてから、そこにある扉を開けた。 店とは別の入り口、個人の玄関になるらしかった。 ガラガラと、木の扉は音を立てた。 (うわっ…昭和?大正?でも、いいなぁ…。ガラスでもない、オール木だ。) 玄関に入っても、古い木が目に止まる。 木造建築、薄暗さと、静けさはそのままで、ここだけ時間が止まっている様に感じた。 「おは…ようござい、ますぅ……。」 静かすぎて声を出す事に躊躇した。 「おはようございます。どうぞ、左側に上がって下さい。」 中から、一ノ瀬の声が聞こえた。 靴を並べて左側の上り口に座り、障子を開けた。 「おお、凄いですね?今時の子が上り口で座って開けるのを見たのは初めてです。」 いつもよりテンション高めの一ノ瀬に言われて驚く。 「ここ、までではないですが、うちも古い家ですし…。祖母の部屋は未だに障子です。」 「そうでしたか。どうぞ、こちらにお座り下さい。」 丸いちゃぶ台…昭和か!と突っ込みたいが止める。 面接官みたいな一ノ瀬が、そこに座っていたからだ。 障子を閉めて、座布団を退けて座る。 「おはようございます。今日からアルバイトに参りました。 藍田 このはです。よろしくお願いします。」 「こちらこそ。すみません、ついつい嬉しくて厳しい目で見てしまいました。 ですが、足で障子を開けたとしても、首にはしませんのでご心配なく。 ここを案内します。この部屋は店の真裏で、店に出す前の本などが置いてあります。まぁ、事務所です。休憩もここでして下さい。では、こちらへ。」 コの字型の玄関を上り口にそって歩き、玄関の右手側に行く。 「ここは私の部屋ですので、入らない様にお願いします。 こちらがトイレです。ご自由にお使いください。 それと、この横のドアは階段です。上には上がらないで下さい。 つまりは…このドアを開けないで下さいということですね。」 笑顔でドアを開けて階段を見せて、笑顔でドアを閉めた。 最初の部屋に戻り、エプロンを着けるように渡された後、白い手袋、埃取りを渡される。 事前に動きやすい服、ズボンであれば何でもいいと言われていた。 一ノ瀬を見て、シャツブラウスと薄茶のズボンにした。 「店を開けるまでに横の和室の掃除、電気ポットのお湯の準備、床掃除をお願いします。」 「あ、はい。あの、台所は?」 「ああ、奥の和室の横、、この部屋の隣です。」 一ノ瀬はまた歩きながら台所に案内する。 小さな台所だ。 「台所に入るにはこの事務所兼休憩室を通らないと入れません。 この横の和室はお客様に解放していますが、事務所には入れないように注意して下さい。」 「つまり、お茶のおかわりを要求された場合は…?」 「手が空いている方が要求にお答えします。」 「ここ、古本屋ですよね?」 「はい。あの和室のお客様と、あの部屋のお客様は特別とお考え下さい。」 それだけを言い、一ノ瀬はカウンターの中に入った。 このはは、電気ポットの準備をしてから、和室の掃除を開始した。
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