まほろば

2/7
512人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
ポットを台所から運んで、このはは一ノ瀬に声を掛けた。 「あのぉ?掃除のチェックいいでしょうか?その間にお店の床を掃きます。」 「はい、見ておきます。開店5分前に挨拶しますので、カウンター前にお願いします。」 「はい!急ぎます!」 このはは店内の掃除を開始した。 その間に、一ノ瀬はお客様用の和室を見に行った。 「さすがです。如何ですか?店主…。」 小さな声で呟く。 『少々、雑な面もあるが悪くはない。清々しい…良い流れだ。』 部屋の中に、低くて小さな声が流れた。 僅かに、隣の声が漏れ聴こえている様な…小さな声だった。 一ノ瀬は笑顔でそれに返事をする。 「では、今日も皆様方はここでいいお話をしてくださる事でしょう。 店主も気分良く、お聴きになれる。良い事です。」 その部屋にある戸棚から、お茶のセットを出してテーブルの上に置く。 「これは伝え忘れです。このはさんのミスではありません。」 独り言の様に呟いて、カウンターに戻ろうとする。 「あの?何か、お呼びになりましたか?」 店内に戻ろうとして、目の前にこのはがいて、一ノ瀬は驚いた。 「いいえ。お茶のセットが戸棚にあります。出しておいて下さい。」 「あ、はい。分かりました。」 テーブルの上をちらっと見て、このはは納得して返事をし、掃除を再開する。 「マンゾクか?」 二方は水を飲み、横目で一ノ瀬を見た。 「ええ。それにしても妙なご縁ですねぇ。口伝えが繋げた出逢いですか…。 素敵ですねぇ…。」 「アホか…。ステキドコろじゃ、ナイダロ?コムスメ…ミエタんだぞ? ホンノ虫だ。虫に好かれる。体質だな。ここに来たら余計にだな。」 一ノ瀬は二方を見て微笑む。 「今度、このはさんの前で流暢に話したら、おやつなしにしますね?」 「イイヨ。コムスメの側にイタラ、虫が喰える。」 九官鳥の二方が笑ったように見えた。 「あの?終わりました。10時、5分前です。」 カウンターの前に、このはが背筋を伸ばして立っていた。 「では、朝礼を始めましょう。特別な事はありません。お客様が来たらご挨拶を。あとは、話しかけられない以外、話しかけない様に。 和室のお客様は、私が対応します。このはさんは店内をうろついて、埃を取り、乱雑になっていたら整理をお願いします。 お客様に本の場所を聞かれたら、分かる範囲でご案内を。 分からない時は、二方さんか私にお聞きください。」 「に…二方、さん?に、聞くんですか?」 「はい。」 「二方さん…分かるんですか?」 このはは思わず、二方の入っているゲージを見た。 「コムスメ!イチノセハヤトワレダ!ギュ!」 「えっ?雇われ?」 一ノ瀬の顔を見た。 「はい。この店の店主、オーナーですね。彼は現在旅行中でして。 私は雇われ店主になります。二方さんはオーナーの鳥、何ですよ。 ですからお店は私よりも詳しいです。 聞いて下さいね。」 「はい。じゃあ…。」 二方のゲージの前に行く。 「二方さん、よろしくお願いします。」 きちんと、二方に頭を下げた。 二方は驚き、バタバタと羽をバタつかせて、澄ました顔をして、 「キュ!コムスメ!マホロバにようこそ。」 と、そっぽを向いて言った。 「い、一ノ瀬さん!二方さんが、歓迎してくれました?」 顔を一ノ瀬に向けて聞いた。 「はい、珍しく…。」 笑いながら一ノ瀬が言い、店を開けに行った。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!