まほろば

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開店して30分ほどは静かだった。 気になる棚を埃取りではたき、乱雑な本を綺麗に並べる。 これだけでも気分がいい。 夏休みだからか、小学生や中学生、近所の子だろうか。 数人が入って来た。 このははあの部屋を見た。 あの部屋に入って行く人はいない。 そういえばあの部屋に入る人を見たことがない。 考え事をしていると、エプロンを引っ張られて、顔を向けると小学生の男の子がいた。 その場に座り込んで、挨拶をする。 「おはよう。なにかな?」 「図鑑ない?」 「何の図鑑?」 「虫!」 「んとね、こっち。案内しますね。」 小学校の恐らくは低学年。 このはは丁寧に接客する。 それをカウンターで一ノ瀬と二方が見ていた。 「ヨリニヨッテ、虫!受ける!」 「二方さん!」 「コムスメ、ココ、ヤバイ、チガウカ?」 「珍しいですね。二方さんが人の心配をされるなんて。 人がどうなろうが、構わないんじゃないですか?」 「カマワナイ。リンゴの礼。」 「素直じゃないですねぇ?気に入ったんじゃないですか?」 「バっ……。」 「いらっしゃいませ。こちらは200円ですね。」 二方の反論の言葉は、お客が来た為の一ノ瀬の対応の声で消えた。
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