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常連さんと会話をする一ノ瀬を残し、カウンターの中に戻ると、不思議な顔で二方に囁いた。
「遠縁の子って、聞いちゃダメな事でした?」
「オレニキクナ…。」
「二方さんを尊敬して、聞いてみましたけど、ダメでした?」
このはは二方のゲージ前で真っ直ぐに見つめて言う。
そろそろ一週間以上経ち、二方の扱いにも慣れて来た。
素っ気なく、口が悪く態度も悪い二方だが、鳥なのに鳥扱いを嫌がる。
丁寧に扱うと照れてしまい、嫌々言いながらも、答えてくれる。
「キイチャダメジャナイ…。タダ、イチノセ、ジブン、ハナスノキライダ。」
「ふむ…。私も自分の事、話すのは苦手です。同じですね。
分かりました。気を付けます。じゃあ、一ノ瀬さん、戻って来たので店内に戻りますね。二方さん、ありがとうございました。」
軽い会釈をして、このはは店内に戻る。
入れ違いでカウンターに一ノ瀬が戻る。
「何か話してました?」
二方を睨んで聞く。
「別に…。」
「怪しいですねぇ。このはさんはあくまでバイトです。この夏、一つ話が終わるといいなという願いを込めたタダのバイト。そこ、理解して下さいね?」
「コムスメ、ツカエルゾ?餌にもなる。従順、純情、無垢、白でも黒でもないグレー。あの部屋で見える。いい素材だ。手放すのは惜しい。」
二方の言葉に一ノ瀬はさらにきつい眼差しを向けた。
ゲージに近寄り、小さな声で囁く。
「バイトです。この夏の、不定期なお客様に対応する為の…。
お客様がいます……流暢に話すのはお辞め下さい。」
「流暢に話す九官鳥もいる。二方、一ノ瀬キライダ。」
二方はゲージを開けて、店の中に飛び出した。
珍しい光景に常連さんもそれを見ていた。
黒い大きな九官鳥は、バサバサと飛び、店の棚で見えなくなった。
「あれ?珍しいね?いっちー放したのかい?」
「いいえ…。ストレスですかね?飛びたくなった様です。お気にせずに、お話をして下さい。」
一ノ瀬は二方が降りた方向を見た。
「やれやれ…。何だかんだ言いつつ、気に入った様で…。」
と、言うとため息を吐いた。
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