まほろば

7/7

523人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
このはが整理している棚の上から、突然、それは舞い降りた。 このはの左肩にドスンと、乗った。 「な?重い……。二方さん、何のご用ですか?」 「ベツニ。」 「えっ?ゲージ出ていいんですか?戻って下さいよ。」 「イヤダ。」 「て…何で?じゃあ、他に止まって下さい。」 「ウルサイ、コムスメ。カンシ。シゴト。」 「はぁ?仕事の監視?一ノ瀬さんの命令ですか?」 「イチノセ、メイレイキカナイ。シゴト、シロ!」 左肩からは、どうしても降りないという態度が見えた。 仕方なくそのまま仕事をする。 「二方さん……以外に重いんですね?」 「コムスメホド、デハナイ。」 「かなり失礼ですけど事実なので、いいです……。」 これ以上の会話は諦めて、このはは仕事を続けた。 移動する度に、二方をぶつけない様、このはは手を置いたり、カバーしたりしながら二方を気遣って仕事をする。 その様子を見ながら、一ノ瀬は苦笑する。 「ぶつかれば飛んで行くのにねぇ……。人がいいですねぇ…。」 幽霊は怖いくせに、仕事終わりにあの部屋に行く。 頼んでもいないのにあの部屋の掃除もして帰る。 何日目かに怖くないのかと聞いたら、 「幽霊も読みたい本があるのかもしれないし、それを邪魔する権利は私にはないです。本を好きに読む事は平等ですから。せっかくの読書なら綺麗にしておいてあげたいので。これはバイト料は頂きませんから。」 と、このはは答えた。 (幽霊怖いのに、平等?) 一ノ瀬は心の中で笑う。 学生服のあの幽霊はもうひと月、あの部屋に居着いていた。 いくら話しかけても口を聞かない。 このはにだけ、反応を示した。 あの日、このはが部屋から出て来た後、店主が様子を見に行った。 学生の幽霊…いや、魂は、彼女を愛おしそうに見ていたのだ。 だからバイトに誘った。 ここは古本屋。 店主の因縁もあってか、妙な客は多い。 そこに居るべきではないものが長く居るのは、「場」としてよくはない。 この店は店主が、店主であるべき姿を保つ為の店だ。 その力に釣られて妙な客は来る。 それを対処するのが二方の仕事。 表の仕事は一ノ瀬の仕事だった。 「困りましたねぇ…仕事がやりにくい…。」 一ノ瀬は珍しく頭を抱えた。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

523人が本棚に入れています
本棚に追加