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このはが整理している棚の上から、突然、それは舞い降りた。
このはの左肩にドスンと、乗った。
「な?重い……。二方さん、何のご用ですか?」
「ベツニ。」
「えっ?ゲージ出ていいんですか?戻って下さいよ。」
「イヤダ。」
「て…何で?じゃあ、他に止まって下さい。」
「ウルサイ、コムスメ。カンシ。シゴト。」
「はぁ?仕事の監視?一ノ瀬さんの命令ですか?」
「イチノセ、メイレイキカナイ。シゴト、シロ!」
左肩からは、どうしても降りないという態度が見えた。
仕方なくそのまま仕事をする。
「二方さん……以外に重いんですね?」
「コムスメホド、デハナイ。」
「かなり失礼ですけど事実なので、いいです……。」
これ以上の会話は諦めて、このはは仕事を続けた。
移動する度に、二方をぶつけない様、このはは手を置いたり、カバーしたりしながら二方を気遣って仕事をする。
その様子を見ながら、一ノ瀬は苦笑する。
「ぶつかれば飛んで行くのにねぇ……。人がいいですねぇ…。」
幽霊は怖いくせに、仕事終わりにあの部屋に行く。
頼んでもいないのにあの部屋の掃除もして帰る。
何日目かに怖くないのかと聞いたら、
「幽霊も読みたい本があるのかもしれないし、それを邪魔する権利は私にはないです。本を好きに読む事は平等ですから。せっかくの読書なら綺麗にしておいてあげたいので。これはバイト料は頂きませんから。」
と、このはは答えた。
(幽霊怖いのに、平等?)
一ノ瀬は心の中で笑う。
学生服のあの幽霊はもうひと月、あの部屋に居着いていた。
いくら話しかけても口を聞かない。
このはにだけ、反応を示した。
あの日、このはが部屋から出て来た後、店主が様子を見に行った。
学生の幽霊…いや、魂は、彼女を愛おしそうに見ていたのだ。
だからバイトに誘った。
ここは古本屋。
店主の因縁もあってか、妙な客は多い。
そこに居るべきではないものが長く居るのは、「場」としてよくはない。
この店は店主が、店主であるべき姿を保つ為の店だ。
その力に釣られて妙な客は来る。
それを対処するのが二方の仕事。
表の仕事は一ノ瀬の仕事だった。
「困りましたねぇ…仕事がやりにくい…。」
一ノ瀬は珍しく頭を抱えた。
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