夏の出逢い

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夏の出逢い

帰りには必ず、あの部屋に入り、掃除をして祖母の本を手にした。 変わらない写真のみの本。 バイトは上手く行っている。 普通ではないと思ったが、意外に普通の古本屋。 貸し出す事を除き、常連が部屋でたむろするのを除外すれば。 午前中は大人が来る。 物静かな学者風の方が古い本を探しに。 大学生風の人も多い。 だから静かで穏やかな空気が流れている。 昼過ぎからは常連さんのお話が聞こえる中、中高生が多い。 それも夏の間だけと聞いた。 「だからこのはさんをアルバイトに雇ったのです。レジ作業でカウンターにいる事が多くなり、店内を掃除して回れないのです。」 と、一ノ瀬はこのはに言った。 このはの仕事は主に掃除と整理整頓、中高生の本を探す手伝いだ。 時々、立ち止まり本を読んでも怒られたりはしない。 1時間に五分程の立ち読み。昼休憩の立ち読み。 一ノ瀬も二方も、それには何も言わなかった。 ただ、二方はあの日以来、1時間のうち20分ほど、このはの肩に居座る。 飛んで来てはドスンと乗り、無言。 そしてまた、無言でゲージに戻る。 時々、 「コムスメ、カンシャシロ!」 とか、 「コムスメ、ドンクサイ。」 とか、言われるのが今、一番、意味不明で、このはの頭を悩ませている事だった。
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