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まほろば
夏休みのアルバイト。
普通でいい、普通がいい……なのに初めてのバイトに、こんな普通じゃない場所を選んだ事に少しだけ後悔する。
一ノ瀬は二方のケージを掃除している。
電気ポットは台所でスイッチを入れて来た。
掃除が終わり次第運ぶとして、この和室をどこまで掃除する事を要求されているのかを考えた。
(店が開くまで30分で、店の床も掃くという事は、この部屋の掃除は10分〜15分……。掃除機は、ある。畳の拭き掃除する時間まではないか…。
埃を素早くはたいて、掃除機を掛けて。テーブルを拭く。上り口を拭く。扉を拭く。この程度で15分……。)
考えながら、兎に角動く。
四畳半の和室、座布団をまとめてテーブルを横に起こして、素早く掃除機を掛けた。
一番最後にテーブルを戻し、拭いていると、一ノ瀬はレジで計算中だった。
何も言われないのでこれでいいのかと思いつつ、台所にポットを取りに行く。
「イインジャないの? アレ、ツカエル。」
このはの姿が台所に消えてから、二方が言う。
「私の目に狂いはないですねぇ。さすが、私です。」
「シッテルカ?ソウイウノ、ジガジサンっていうラシイぞ?」
「信頼と実績の一ノ瀬です。」
「アレで500エンカ?サギだ。」
「いいえ、二方さんは九官鳥です。」
「胡散臭い!」
「流暢に喋るのやめて下さいね?」
胡散臭い笑顔で一ノ瀬は笑った。
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