悪役令嬢は初めてのお茶会の準備をする

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悪役令嬢は初めてのお茶会の準備をする

「あのぅ…私の部屋に何か…?」 人だかりから少し離れたところで恐る恐る声をかけると、人だかりを割って珍獣が襲いかかって来た。 「エーーールーーー!私の可愛い天使!私の可愛いプリンセスをあんなに素晴らしく描いたのは一体誰なんだい?!」 「痛いです離してくださいそしてうるさいですお兄様」 いきなり私に襲いかかって来たこの珍獣はエストワ=カール=インヴィディア。私のもう一人の兄である。エストワお兄様は私の8つ上で今は王立デラシア魔術学院の一年生で学園の寮に住んでいる。趣味は骨董や芸術品を集めることで長期休みで帰省する時によく怪しい物を買ってくる。そして迷惑なことにそれを妹である私、エルヴェラールにプレゼントしてくる重度のシスコンである。というか休みでもないのになんでいるんだコイツ。 「一体何のことですか離してください骨折れます」 私がプロレスのように珍獣の腕をペシペシ叩くとお兄様は急いで私を手放し、強引に私の手を引いて部屋に入った。転ぶわこの野郎。 私が恨みがましくお兄様を睨むとお兄様はキラキラした笑顔で私をアレの前に連れて来た。 「私のデッサンがどうかしましたか?あ、なんかついてるし」 私がデッサンについた汚れを爪で取ろうとすると、その手をお兄様が捕まえた。 「エル!君は名画に何をしようというんだ!」 「私が描いたのだから別にどうしようと私の勝手ですし、お世辞にもこれは名画では」 「なんてことだ!」 その場に頽れるお兄様。テンション高すぎだろこの人。そして顔の前で手を組んで私の方を見つめないでほしい。 「エル…君は天才だ!」 興奮したお兄様が食い気味に言うには私が描いたデッサンは上手いらしい。他にも色々言っていたのだがお兄様語は少し意味が分からないので訳せず。 私としては、この体になってから初めてのデッサンにしてはまあ、良い方だとは思うけど所々気になる箇所がある。 間違っても名画とは呼べない代物だ。 これはあれか、子供のやることなすこと全てが可愛いもしくは素晴らしく見えちゃう現象か。甘やかされてるなあ。ゲームのエルヴェラールもこれだけ甘やかされてたらわがまま放題にならないはずがない。 きわめつけには使用人が額縁を持ってきた。よく見つけてきたね、そんな立派なの。 私の微妙な出来栄えのデッサンは使用人の手によってあっという間に額装され、持って行かれてしまった。 翌日、私はレオン殿下のお茶会に着ていくドレスとアクセサリーを決めるために商談などに使われる広間に向かう途中で奴と再会した。 歴代の家族写真ならぬ家族肖像画が並ぶ廊下の壁にしれっと並べられている私の自画像。 油絵でカラーで描かれてる中に鉛筆のモノクロは目立つでしょうが! 親バカならぬ兄バカもここまでくると引く。 私は自画像を後で外してもらうように頼もうと思いつつ広間へ向かった。 広間の真ん中には大きな姿見が鎮座され、それを囲むように大量のドレスが用意されていた。まるで色相環だ。 私が広間に着くやいなや侍女ズに捕まり、あっという間に一着目のドレスに着せ替えられた。 そのドレスに合わせるアクセサリーの組み合わせも大量で一着目にして心が折れそうになった。 エルヴェラールのイメージカラーは確か青系だった。ここはそれにあやかって青系のドレスにすれば良いのではないかと思い、私は青系ブースを指差した。 「ピンクより青いドレスがいい」 私が青系を指定してからは早く、ドレスはあっという間に決まった。ドレスは。 私は重いものは嫌なのでシンプルなものを推すがお母様と侍女ズはやたらゴージャスなものをつけたがる。 私はお茶会でのんびり過ごしたい。王家主催だからお菓子が美味しいのは間違いないのだ。あまりゴテゴテしたものをつけていくのは肩が凝ってお菓子に集中できなそうだ。それに私には(こうりゃくたいしょう)の観察という隠密任務があるのだ。 お母様たちが我が子可愛さに私を目立たせたいのはわかるがここは譲れない。 結局、間をとったものになったがまあいいだろう。侍女ズがなにやら某マンガの計画通り顔をしていたのは見なかったことにしよう。 お茶会は一週間後。それまで特にやることもないから何か描くか。この世界は娯楽も少ないし小学校が無いためお友達もなかなかできないし貴族の子供は暇なのだ。お兄様たちは家庭教師をつけてもらって勉強したりもう学園に入ってたりして忙しそうなのだが。
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