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 赤い装丁の本に嫌でも目がいく。  関わらない方が、忘れた方が良いと言われた。だからといって、すぐに記憶から消去できるわけではない。目に焼きついてしまっているのだから。  そもそも、触れることすらしない方がいいとはどういうことか。内容がとてもひどいというなら、'読まない方が良い'だろう。それに、内容は知らないと言っていた。  例えばこれが海外映画とかなら、極秘資料の受け渡しのため、タイトルのない本という形をとっているとかもあるんだろうけど、現実味はない。  まぁ、今目の前にあるのは表紙にLittle Red Riding Hoodとある上に、本ではなくて本を模した箱だ。パタンと開くと、内側には話がマンガみたく薄く描かれている。  狼いるし、もうこれで良いんじゃないかという気もする。でも、ピンとこない。  というか、あの本に意識をとられ過ぎていて、全然プレゼント探しに集中できない。  どうしたものか。  というか、本当ならこうやってプレゼントを探しまわったり、本のことで頭を悩ませている時間なんてないのだ。勉強しないと。したく、ないけど。  結局、勉強したくなくて他のことに意識向けてしまっているだけなんじゃないかという気がしてきた。  とにかく、まずはプレゼントを探そう。もうあまり時間がない。  ぐるっと店内を見回す。  雑貨やちょっとしたアクセサリーなどが並べられている。そこそこ人がいて、多くは女性客。というか、今見える範囲だと女の人ばかりだ。  一通り見てはまわった。この間狼の話をしたせいで、どうしても狼関連に目がいきやすい。狼のぬいぐるみのキーホルダーもあった。それでも良いかもしれないけど、何となく見覚えがある気がする。もしかしたらもう持っているかもしれない。  パタンと、手元の箱を閉じる。  赤い、本。  本なんてどうだろうか。狼の出てくる。それこそ赤頭巾ちゃんとか。いろんな絵のがあるみたいだし、仕掛け絵本があってもおかしくない。そういうのならプレゼントに適してそうだ。  まぁ、狼、悪者だけど。物語の中では大体悪者だ。そこんとこどう思っているんだろう。聞いた覚えがない。  というか、狼にこだわる必要もないのだ。なんかこう、良い感じの言葉とかイラストとか写真とか、そういう。  そういう本を探している途中で、またあの本に出会ってしまったとしたら不可抗力だ。気づかず手に取ってしまったとしても、仕方がない。 「………」  こんなことを考えてしまっている時点で、不可抗力でも何でもない。ため息を一つこぼす。  深く暗い赤。目に焼きついて離れない。  その背表紙に目をひかれて。タイトルを確認したかった。どんな内容なのだろうと気になった。タイトルはないらしい。内容は知らない方が良いらしい。いや、内容どうこうどころでなく、そのものと関わらない方が良いみたいな言い方だった。  だったらせめて理由を教えてもらいたいものだ。それを知ることすら、しない方が良いということなのだろうけど。  本屋とかにすら、あまり近寄らない方が良いのだろうか。  一通り、見てはまわったのだ。でも、一ヶ所だけ、あまりきちんと見ていないところがある。アクセサリーが置いてあるところは流石に女性向けすぎて近づきにくかった。  ああ言われてしまった手前、本にするのは最終手段にした方が良い気がする。そうでないと言い訳がたたない。もう会うことなさそうだし、気にしなくても良いのかもしれないけど。  ちらりと、様子をうかがう。今、近くにあまり人はいない。よしと意を決して近寄った。  ネックレスに、ブレスレットに、イヤリングやピアス。目がチカチカする。光り物ばかりなわけじゃないけど、気分的に。  シュシュや髪留めもある。どれもお手頃な値段だ。ピアス。穴は開けていた。ある日突然開けてきてビックリしたもんな。でも、こういう身につける物を贈るのは何か抵抗ある。  やっぱりなしだよな。  他に、何か。  視線を動かそうとして、それが目に入った。  あ、これがいい。  赤いリボンのついた、小さなヘアクリップ。  これいい。かわいい。これにしたい。単純に好みだ。でも安い。プレゼントとしては安すぎる。でもなぁ。  手にとって、まじまじと眺めてみる。やっぱりいい。これを棚に戻す気にはなれない。でもプレゼントとしては安すぎる。いくら身内に対してだからって。  どうしたものか。  悩みつつも手はそれをしっかり握りしめてしまっている。どうしよう。これは買いたい。というか買う。だったらせめて何か他にもう一つ。別に一つでなければいけないわけではないのだ。  でも、一つ決まったから気楽に探せる。値段的にはきっと逆転してしまうけど、このヘアクリップがメインのプレゼントだ。  もう一度、店内をゆっくり見てまわる。何か、手ごろな物。一緒に渡すんだから、何かしら関連のある物の方が面白い。  置物、小物入れ、鏡。鏡は組み合わせとして悪くはないけど面白くない。他。ポーチ、キーホルダー、ぬいぐるみ。  ……あれ?  さっきは手前に別のがあって、赤い頭しか見えていなかった。だから勘違いをしていた。色んなぬいぐるみが雑多に置かれてる中に、狼のがあった。赤い頭巾を被っている。手のひらサイズで、値段も手頃。というか、これ一つでも十分なぐらいだ。見覚えもない。なら、これでいいか。  レジに持っていって、プレゼント用の包装を頼む。その際に、ヘアクリップは頭巾につけてもらった。赤い頭巾に赤いリボンなので目立たないが、問題はない。  さて、プレゼントは見つかってしまった。これからどうしようか。  どうしようも何も、帰って勉強するべきなのだろう。良くないことに、やる気が全くないが。何もない時なら、公園に足をのばして散策している。今はむやみに近づけない。  図書館なら、と考える。受験生が出没しておかしな場所ではない。うまくすればまた原さんに会えるかも。結局、あの日は調べ物ができなかったわけだし。会えたところであの本の事は聞けなさそうだけれど。  本屋を覗く理由もなくなってしまった。まっすぐ家に帰るべきなのだとはわかっている。今は物騒なのだから。  でも、まだ帰る気にはなれない。まだ、暗くなるまでには時間がある。だったらせめてもう少し、外をうろついていたい。何か明確な理由があるわけではないけれど。  でもまぁ、紅ちゃんにバレたら、きっとまた怒られる。
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