6月△日

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6月△日

俺の家には黒猫のクロがいる。 尊を拾ったとき同様、あの時も雨だった。 秋の夜長、小腹が空いて、夜中にコンビニへ行く途中、空き家の庭から、か細いニャーという声が聞こえて来た。 雨だし、夜中に空き家に入るのは不気味な感じがして一旦は通り過ぎたが、ニャーニャーと鳴き続ける声に後ろ髪を引かれ、俺は勇気を出して庭に入りボーボーに生えた雑草をかき分け猫を探した。 だが暗がりで鳴き声だけを頼りに見つけるのは難しく、小腹が空いた腹が鳴り自然と足がコンビニへ向かいかけたその時、ピョンッと足元に黒い塊が現れた。 俺は妖怪でも現れたのかと恐怖にかられ、傘の柄を握りしめキャーと女のように甲高い声で叫びかけたが、ニャーという鳴き声が耳に入り恐怖は一瞬で消え失せた。 俺はその場にしゃがみ、足元にある黒い塊をじっと見つめると鳴き声の主が黒い子猫であることが分かった。 「ビックリさせんなよ、お前」 ニャー。 俺のクレームに子猫はわれ関せず、俺の足にすり寄って来た。 俺は子猫を抱き上げると小腹が空いていたことは忘れ足は自然と家へ向かった。 あれから数年、子猫は愛らしい姿から、ふてぶてしい大人に変貌し、定位置となったリビングにある出窓に日がな一日眠っている。 同じ雨の日に今度は人間を拾うことになるとは…。 俺の家に着いた途端、尊は騒ぎだした。 「ウワッ!汚い!何日掃除してないんですか?ホコリだらけですよ床。ウワッ!出窓には真っ黒な巨大なカタマリが!」 「あれは猫だよ」 ニャーオ。 家事はすべて亡くなった母親任せで家のことは何もしてこなかった俺は、四十路を越えても、食べる食器が無くなってやっと食器を洗い、着るものが無くなってやっと洗濯をし、くしゃみが止まらなくなってやっと掃除をする最低限しかやらない野郎だ。 俺がそんな野郎だから、親父が建てたこの家が腹を立て尊を呼び寄せたのかもしれない。 なぜなら尊が来てから数日経つと家は見違えるようにキレイになったからだ。 尊は当然、食器は毎食後洗ってくれ、洗濯も毎日してくれ、床や黒いカタマリと勘違いされたクロの居場所も塵一つ無いほどキレイにしてくれ、俺はくしゃみを連発することは無くなった。 おかげで尊には、とても感謝しているが、この家も誰かを呼び寄せるなら、キレイ好きな男よりキレイな女の方がよかったなと内心思っていた。 最低野郎だな俺…。
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