溶けよ!アイスファミリー

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溶けよ!アイスファミリー

『第1回 アイスは別腹?家族の絆でコールドゲーム!早大食い大会IN WINTER』 季節は冬…町おこしの一環、どれだけのメディアが飛びつくのか…僕たち家族はこの大会で優勝することを旨に、ひたすらと練習を重ねていった…! 優勝商品…【家族ハワイ旅行】 …申込みは完了した。どれだけの家族がこの過酷な大会に参加するのかは分からないが、 僕ら家族5人は今まで無かった以上の絆の結束で、優勝を目指し、日々鍛練している。 父、母、僕、弟、妹…。 人生の中で、ここまでアイスに没頭したことはないだろう。 我が家の冷凍庫は、あらゆるメーカーのアイスで埋め尽くされている…。食卓にデザートタイムなるものが設けられたのは言うまでもなく…。 …大会開催まで、あと…1週間…。 大会のルールは簡単だ…。制限時間60分で、用意されたアイスをたくさん胃袋に入れた家族が優勝だ。 あっ、ちなみに、参加費はとられてしまうんだよね…。5人一組が条件で、5000円。。高いのか、安いのかはよく分からないが、まぁ…アイスがたくさん食べれて、ハワイ旅行ゲットできたら、いいのかなぁ? とにかく、我が家の精鋭部隊5人は、ラストスパートに磨きをかける…! 52歳父はまぁまぁなメタボリック体型ではあるが、そこまで大食いというわけではない…アイスにここまで、胃袋を捧げることは、この大会抜きには有り得なかったことだろう。 棒アイス系担当。 50歳母は、甘いもの…デザートが大好きだ。 普段食べる量と比べると、アイスは結構いける口ではある…。大会結果は関係なしに、なんだか、家族団欒を楽しんでいるように思える。カップアイス系担当。 21歳弟は大学生。就活をしながらもアイス訓練を受けてくれている。アイス関係の面接試験であれば、一発合格するぐらいの知識は身に付けたのではなかろうか…。コーンアイス系担当。 妹18歳は高校生。体重を気にしながらも家族の為に合同参加。乳成分がカットされているアイスばかりを口に運ぶ。季節限定の可愛い系が好きだと豪語する。シャーベット系担当。 最後は社会人25歳の僕…。ある意味、一番頑張らないといけない存在ではある。4人の期待の視線が熱く注がれるのには困っている。その彼らの瞳は、『常 夏』に燃えている。 しかし、僕は…その期待に応えられる自信がない…。昔から胃腸が弱かったからだ…。僕の目の前にはいつも、胃腸薬が置かれている…。残酷なアイスのテーゼは大会本番まで鳴り止まず…。オールラウンドで担当。 …このアイス訓練…夕食を抜き、部屋の中を暖め、とにかく60分間、アイスを食べ続けるわけだが…一番の問題点は…… 身体の冷え!!である…頭と腹の二重奏…。 満腹感との戦いというよりは、身体的ダメージとの戦い…。 僕がタイミングを計りながら…悶絶の60分間… アイスタイム…スタート!! クーラーボックスをこたつの上に、家族全員が担当するアイスを食べ始める…。 モグモグ…シャリシャリ…パクパク…ペロペロ…ガッツリ…! 家族みな、身体への冷刺激に慣れてきたのであろうか…いいペースで、黙々とアイスを頬張り散らしていく…。 みんな、頑張れ!…僕もハンデを背負いながら、無我夢中でアイスを口の中へ押し込んでいく…。 みんな、食べ方が上品になってきたなぁ…と思ったその時…!? その激苦は突然やってきた…。 家族全員が互いに視線を送る…。 食スピードは次第に衰えていき、全員の顔が真っ青に染まってゆく…。 ガダッ…! 一人が立ち上がると、連鎖するように… 皆、この家に一つしかないトイレに駆け込む…! ダダダダ…バダンッ…ガチャリ…。 一家の大黒柱の父がまず、トイレを占領する…。。 ドンドンドン…!! 「…は、はやく…してーっ!」 「あ、あけろー…も、漏れるぅぅ!」 「ず、ずるいわよ!あなただけー!!」 …僕はお腹とお尻を押さえながら、響き渡る苦悶の叫びを聞いていた…。 「……うっ、うっ、ぐぅぅ…すまない、お前たち…。」 父も家族の呼び掛けに、従順になれる余裕などはない…。 「…あぁ、もう駄目だ!!くそ親父ー!俺、近くのコンビニ行ってくる!!」 「わ、私は公園!!」 「お、お母さんは庭でいいかな…?」 や、やめてくれ!家族の羞恥する姿など見たくはない!…あの、家族の結託した心は何処へ、流れていってしまったのですか…。。 決して、冷えに慣れていたのではなかった…。蓄積された冷え成分が、このタイミングで家族全員のお腹を侵食したのである…! 死凍…襲来!! 僕はひどく後悔した…なぜ、出場しようと考えてしてしまったのか…。そして、僕のお腹も限界を迎えた…。 …その日を境に我が家の冷凍庫からは、アイスの姿は消えた。2度と収まることはないだろう。多分…。 アイスに賞味期限こそはないものの、冷凍食品を取り出す度に、その姿が視界に入ることは許されがたい事実であったのだろう。 ひどい扱いだよな…ごめんな…あいちゅ…。 僕は勿体なさを理由に、職場の同僚たちへとお裾分けした。 …勿論、大会への参加は家族総意で辞退した。 僕ら家族は、今幸せの絶頂だ…。 常夏のハワイは、身体の隅々までを温めてくれる…少しぐらい暑いほうが丁度いい!! 久々の家族旅行…出費は大きかったが、家族の笑顔はプライスレスだ! 少し気がかりだったのは、滞在中、父親がアイスを購入したのを皮切りに、家族全員がアイスを舐め始めたことである。 結局のところ、炎天下の夏場には反射的に冷たいアイスを身体が欲するということであった…。 【完】
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