傘形連判状-犯人隠し-

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「思うんだけどさぁ、 マンガにも傘形連判状形式を取り入れて欲しいと思わない?」 体操着に着替えながら、翔がぽつりと呟く。 「どういうこと?」 「主人公がハーレム系のマンガあるじゃん。 色んな女の子が出てきて、最終的に一人と結ばれるエンドのやつ。 あれ見開きページの集合画の大きさとか登場人物紹介ページに描かれてる順番とかで 誰が本命のヒロインか勘付いたりしない?」 「…確かに、傘形連判状みたいにぐるっと回転してキャラを描いてあれば、 読者のミスリードを誘えそうだよな」 「だよな?! あー、これで絶対この単語忘れないわ、 傘形連判状!!」 翔は一人、嬉しそうにガッツポーズを取った。 ーーーそれと同時に、 クラスの男子ほとんどが着替えを終えようとしているタイミングで クラスメイトの奏太が更衣室に入ってきた。 「おい、奏太おせーぞ! 何やってたんだよ」 翔が声をかけに行くと、奏太は顔を真っ青にし、声を震わせながら呟いた。 「…壊しちゃった…」 「は?」 「花瓶…割っちゃったんだ」 純一のクラスでは、先程まで歴史の授業を教えていて、且つ担任でもある 長尾先生が自宅から持ってきた花瓶に 中学校の敷地の花壇に咲く花を飾る習慣があった。 そしてその花瓶の水は、日直を担当する生徒が日替わりで毎朝交換するルールとなっていた。 「マジかよ…」 「長尾先生の私物だよな。 やばくね…?」 会話を聞いていたクラスメイト達から、ざわめきが起こる。 「てか、奏太の席って花瓶の置いてある窓側から離れてるじゃん。 日直でもないのに、奏太が花瓶に近づく理由でもあったのか?」 純一が尋ねると、奏太はおずおずと伏し目がちに答えた。 「あっ…それは、今日の日直の人が水交換するの忘れてるなって気付いて…。 今は夏だし、花瓶の中覗いたら大分水が減っちゃっていたから、 僕がこっそり換えておこうかと思ったんだよ…。 それがまさかこんなことになるなんて」 健気な奏太の受け答えに、思わず純一は叫んだ。 「おい、今日の日直誰だよ?!」 「あ。俺だわ」 ーーー翔だった。 翔は眉を下げ、申し訳なさそうにこう続けた。 「奏太、俺の代わりに水交換してくれたのに、なんかゴメンな。 花瓶の件は俺が割っちまったってことで長尾先生に謝ってくるわ」 「そ、そんなことできないよ! 割ってしまったのは僕なんだよ?! ぼ、僕が謝らないといけないから…っ」 「いやいや、めっちゃ震えてんじゃん」 「じ…実は僕、最近歴史のテストの点が悪くて 長尾先生に呼び出されたばかりだから またお説教されるのが怖くって…。 でも、翔君に罪を被ってもらうわけにはいかないよ!」 「いいって!なんなら俺、授業はあんま聞いてないけど 歴史のテストの点だけは良いから! 長尾先生に怒られるのも今回限りっしょ」 「いや、でも…」 翔と奏太がいつまでも譲り合いを続ける様を見ていた純一は、 ふと先程の授業のことが頭をよぎった。 「ーーーじゃあさ。 『傘形連判状作戦』で行こうよ」
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