恋を知らない蛾

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恋を知らない蛾

蛾はただ、少年へ憧れを抱いていた。透明な肌と憂いを帯びた瞳を自分のものにしたかった。それが、憧憬ではなく恋慕であることを蛾は知らない。次に、生まれてくるなら、彼のように美しい人間になりたい。蛾は夢を抱いた。今は彼が窓を開ける午後に、そっと指先へ止まることしかできない。それもほんの僅かな時間。春の、温かな光へ彼が腕を伸ばす間だけ。冬になれば自分の命は尽きる。蛾はその時まで、少年の元へ訪れるだろう。彼のことを少しも知らないままーーー。
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