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真っ白な少年
少年は不自由だった。淡いオレンジ色の壁に囲まれて、緑色の扉には鍵が掛かっている。出られない。もし、扉が開いたとしても彼が部屋を出ていくのは困難だった。足枷は鉄の塊へ繋がっている。主人はいつも午後になると屋敷を出ていった。その間だけ、彼は庭が見える窓を開ける。温かな春の風が冷たい彼の心を包み込む。いつまでも、こうしていたい。彼は屋敷を出たいとは思っていなかった。食事も本もノートも服もある。不自由だけど、必要なものは揃っているのだ。主人も悪い人間ではない。足枷は、不安の現れだろう。主人に暴力を振るわれることも、体をやたらに触られることもない。朝と夜、少しずつ話をする。それだけだ。庭の気がザワザワと揺れる。腕を伸ばしてみると、一匹の蛾が指先に触れた。彼は少し驚いて、手を閉じる。すると、蛾はゆっくりと舞い降りていった。彼は窓を閉める。
「ーーー俄?」
主人の声に振り向いた。
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