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「さあさ、こちらへいらっしゃいな」
出迎えてくれたその老女の大きさにあっけにとられてしまい、なんの返事もできずにいたけれど、ふと鼻をかすめる良い香りに我に返った。
「ちょうどクッキーが焼けたところなのよ、お好きかしら」
「あ……はい。好きです」
「そう、よかった」
奥の部屋に通された。通された部屋は食堂で、老女の背丈に合わせたとても高い天井であることに加えて、大勢の人間が一堂に会して食事ができるほどの広さであったので、そこらの小さな教会にも負けないほどの広さがあった。
外から見たときに、確かにこの屋敷は大きいとは感じていたけれど、こんなにも大きいとは思わなかった。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうこざいます……」
それはシンプルなバタークッキーで、焼き立ての温かさとバターの香りがとても食欲をそそるものであった。
でも本当にこれを食しても大丈夫なのか不安になり、中々手を出せずにいると、老女が不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「あら、食べないの?」
「いえ……」
「ああ、そうね。そうよね。コーヒーと紅茶はどちらがお好きかしら。オレンジジュースでよければジュースもあるわよ」
老女は何を勘違いしたのか、私がクッキーに手を伸ばさないのは飲み物がないからだと思ったらしい。
「あ、あの、私……お金もなにもないんですけど……」
「いいのよ、遠慮しないで。私の趣味のようなものだから」
そういうと老女はあらためて、飲み物はなにがいいかをたずねてくるので、私は紅茶をとぽそりと言った。その言葉に満面の笑みを浮かべたのちに、老女は淹れたての紅茶を持ってきたのだ。
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