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僕はそれで太田がひるむと思ったがそうでもなかった。むしろ太田はふんと鼻で笑った。
「それで論破したつもりか?」
「しただろ!」
「いいや、俺の家ではこうすれば水やお茶が出てくる」
「特殊能力見たいに言ってんじゃねえよ!…ていうか家に召使いいるの?」
「ママだ」
「母親こき使ってんじゃねえよ!」
僕はこうしている間にも時間が進んでいることに気づいた。今日は帰ってレンタルの映画を見ようと思っていたのでできるだけ早く帰りたかった。
「分かった。水やりは僕がやる」
「やらせてもらうだろ!」
「何でお前がキレてんだよ」
「では朕は帰らせてもらおう」太田はカバンをとって帰ろうとした。僕は慌てて肩をつかんだ。太田はその手を蚊でもつぶすようにたたいた。
「やめろ、汚らわしい」
「ごめん、謝るのもおかしいような気がするけど。でもまだ仕事があるんだ、残ってくれよ」
「なんだよ。一人でやればいいだろうが」
「忘れているかもしれないから言うけど君も日直なんだ」
「覚えてるわそれぐらい!」
「じゃあ仕事しようね。とりあえず黒板消しといて」
僕がジョウロに水を汲んで戻ってくると、太田は黒板の前で胡坐をかいて座っていた。黒板はまだ6時間目の英語の板書がきれいに残っていた。僕はジョウロにくんできた水を太田の頭にかけた。
「何するんだ!」太田はすぐに立ち上がって頭に着いた水を払った。
「お前が何してんだ!」
「ストライキだよ」
「何で急に労働者目線なんだよ!」
「お前が働かせるからだろうが」
「まだ一切働いてないじゃないか」
「働こうとしてたよ、でもお前が朕に水かけるからやる気なくなったよ」
「嘘つけ、水かける前からストライキしてたじゃねえか」
「嘘じゃねえし、マジだし」太田は腕を組んでそっぽ向いた。
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