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少年は廃墟で少女と会う
電脳世界で勉強とか友達と遊ぶのに飽きた時は地上を歩くに限る。
アカツキはそう思っていた。
アカツキはAー5地区に住んでいる。
アカツキを拾った養父母とともに。
捨てられていたアカツキは、電脳世界で流れていたらしい捨て子の情報を信じた養父母に拾われて、今日まできちんと育ってきた。
今では、A地区の中でもかなり頭の良い高校に行けているくらいだ。
養父母もアカツキの趣味がかなり変わっている地上歩きだということは勿論知っている。
知っていて何も言わない優しい人たちなのだ。
実は、この散歩には隠れた目的がある。
それは、<図書館>を探すこと。
アカツキが捨てられているという情報を流した<図書館>というアカウントは、写真一枚しかないアカウントだった。
その写真は、歴史の資料館でしか見ることのない重厚な建物の中にたくさんの本が並べられているというもの。
そもそも『本』が世界から消えて百年以上経つ世界でその光景はあり得ないものだった。
それでも、合成している部分はなかったのだ。
つまり、噂にならないような場所、例えば廃墟地域などにあるのではないか。
そう思って、アカツキは今日も地上を歩いていた。
崩れ落ちかけた、またはもう崩れ落ちてしまった、昔人々が住んでいたであろう廃墟。
最近はまっているレイセ・イノチの曲を聴きながらのんびりと歩く。
人ひとりいない廃墟の町。
だから。
廃墟のひとつで少女を見たときも幻だと思った。
廃墟には合わない白いワンピース。
その時。
<図書館>を探して歩いていたアカツキの成果の末なのかはたまた偶然か必然か。
ひとりの少女がアカツキに気づいてこちらを見た。
アカツキとよく似た蒼い眼の少女。
こんなところに少女がいるはずもないと思いつつ、現れた少女をまじまじと見つめる。
少女も同じようにこちらを見返す。
ふたりは、出会った。
物語の、はじまり、はじまり。
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