少女は知る者逃げる者

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少女は知る者逃げる者

(何なの、こいつ? こんな所へ来るなんて誰?) エバは軽く混乱していた。 でも、追手ではなさそうだった。 寝癖のついた黒い髪とラフな服装。 自分と同じくらいの年であろうその少年の視線は、エバがいついかなるときも離さない本へとそそがれていた。 (本に注目している? でも何で?) エバ自身の危険察知能力は全く反応しなかった。 少なくとも、危ない奴ではないということだろうか。 そんなことを考えていると、少年が話しかけてきた。 「それって、本、ですか? 図書館にある?」 「あ、え? まあ、そうですけど」 「もしかして、図書館のある場所を知っていますか?」 「それは……知りません」 「そうですか……」 そう言うと、少年は考え込んでしまった。 図書館。 それは、エバが探しているものでもあった。 エバは、ギアに見つけられた時、『図書館』と書かれた栞とこの世界から消えたはずの一冊の本と共に捨てられていた。 そして何より、ギアが昔、 「お前は図書館から捨てられた子供なんだよ」 そう言ったこともあった。 だが、ギアはそれ以降何も教えてくれず、エバはひとりで図書館についての情報を集めていた。 といっても、百年以上も前のことなので、目立った情報は特にないのだが。 エバは、少し考えた末に、 「あなたは、こんな所で何をしているんですか?」 と少年に聞いた。 場合によっては。 (てきとーに脅してわたしの居場所を口止めしなきゃいけないしね) 「散歩、ですかね?」 何故か疑問形で返されてしまった。 「散歩? 下手な嘘つくより、本当のこと言った方が良いんじゃない?」 ついつい敬語ではなくなってしまった。 「いやほんとですほんとですからそのナイフをしまってくださいお願いします」 少年は慌てたようにそう言った。 エバは少年の言葉によって自分がいつの間にかナイフを握っていたことに気づいた。 (この癖、直したと思ってたんだけどな……) エバはこっそり苦笑する。 ゆっくりと緊張をとき、一回だけ深呼吸をしてから言った。 「少し、話をしましょう」 「え? あ、はい、わかりました」 エバと少年はちょうどひとりが入るくらいの間を空けて、座った。
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