遥か、愛しのニライカナイへ捧ぐ歌

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* 「初めて久高で南雲のこと見た時、あんまりに肌が白くて綺麗で見とれちまってたんさ」 狭い布団の上で寝転がりながら、俺達は一年前のあの日を思い返していた。 「一人でぼんやりしてたし、放っといたら島で迷子になりそうだったしな」 「ち、地図持ってたのに」 「っていうのは口実。……あぬ時のわんや、ただ綺麗なにーにーナンパしただけさー!」 枕に顔を埋めて恥ずかしそうに脚をばたつかせる明鷲。彼がかなりの照れ屋なのは今日だけでじゅうぶん分かったけれど、あの時声をかけられた理由を知って俺も思わず赤くなってしまった。 「それに、南雲って名前も綺麗だって思った。あれから島で空見る度に、南雲のこと思い出してた」 「………」 「真っ青な空にバカでかい入道雲が浮かんでる時も、海に星が降ってる時も、毎日必ず一回は空見て南雲のこと思ってた」 「……明鷲って、照れ屋なくせにロマンチストだよな」 「あ、いや俺は……」  恥ずかしいのと嬉しいのとで、胸が詰まりそうになる。俺は枕に顔を伏せ、口元だけで笑って明鷲を見つめた。 「俺も、明鷲のことしょっちゅう思い出してたよ」  たった一日の出会いだった。 「明鷲のこと忘れられなくて、でももう会えないって思ってたから辛くて、あんまり思い出さないようにしなきゃって思ってたけど」  たった数時間の出来事だった。 「だけど明鷲が笑ってたことだけは絶対に忘れないようにしようって。俺だけの思い出にしようって、ずっと思ってたんだよ」  だけど、俺達にとっては一生に一度の大事な瞬間だった。 「南雲」 「………」  あのかけがえのない空の色、波のさざめき、海の美しさ。  どこまでも続く白い道、扇風機の回る音、居眠りする猫達──。 「南雲のこと一生大事にするから、一生傍にいてくれよ」 「うん、……」  赤くなった明鷲の、綺麗な黒い瞳。  俺達は向かい合って唇を触れ合わせ、今この瞬間の奇跡に心からの感謝を捧げた。
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