三時のお茶を忘れないで

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 うう……眠い。  もう夜中の三時じゃないか……。  だが、紳士風探偵シリーズの新作は明日、いや今日が締め切りだ。  第二十作目。区切りの一作は何としても落とすわけにはいかない。  何とか書き上げねば。幸い、後は謎解きのシーンを残すだけだ。  後少し、頑張ろう。  僕はノートパソコンのキーボードに指を走らせた。  ボーンボーンボーン。  大広間の柱時計から重厚な鐘の音が流れ出す。 「さて皆さん。ここにお集まりいただいたのは他でもありません。今回起こった一連の殺人事件について、私こと、この名探偵影国進士(かげくにしんし)がその真相をお話ししようというわけです」  関係者達を前に影国探偵はそう宣言し、恭しく一礼した。  西浦邸に集められた今回の関係者達。  すなわち、西浦一族の生き残りと家庭教師の朱史井(あやしい)と執事の奔命(ほんめい)、コックの鯉津田(こいつだ)の合計七人である。  彼らは一様に顔を見合わせ、困惑の色を浮かべている。 「柄江内(つかえうち)君、準備は良いかね」  影国探偵の敏腕なる女助手、柄江内弥津芽(つかえうちやつめ)三十七歳独身は、窓の外をちらりと見てひとつ大きく頷いた。 「それでは、みなさまに事の真相をお話しおいおいおいおい、ちょっと待った」
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