第四章

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 新居崎を見た瞬間、運命だと思った。  さらに、麻野が新居崎に興味をもっているのを知ったとき、それは確固たる決意に変わった。  酒呑童子は、麻野へ固執している。出会ったころはそうではなかったが、麻野を見ているうちに、自分が幸せにせねばと思うようになっていた。麻野の笑顔を守りたいと思うようになっていた。  そして、嫁にすると告げたとき、酒呑童子では麻野の笑顔を守れないと思った。  新居崎ならば、麻野を幸せにできるのでは。  そう感じたのは、おそらく、希望的観測だった。酒呑童子と同じ血が流れる子孫なのだから、もし麻野と新居崎に子どもが生まれたら、それは、酒呑童子の血が流れていることになる。  結局。  酒呑童子の麻野への執着は果てがなく、それでも、麻野の笑顔を守ることが最優先で。  幸せになれと思うのに、終着し続けてしまう。これでも譲歩したほうだ。どこぞの知らぬ男より、子孫へ嫁がせたほうが、酒呑童子も妥協できる。 「……これでいいんだ」  酒呑童子は、苦笑する。  悔しさをにじませた笑みは、泣きそうにも見えた。  大切な人が笑ってくれる、そんな当たり前のことが、自分には難しいのだから。ならば、別の誰かに託すことこそ、自分がやるべきことなのだ。  とはいえ、これからも傍で「友人」でい続けることは、譲らない。  麻野がこの世を去るその日まで、傍で見守り続けると決めたのだから。
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