癒える心と不吉な予感

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「騒ぐな。トラ様の頭に響くだろ」  ナギトの一言で黙るエレミィとショウキは懲りずに視線のみで争いをしている。それにしてもトラの顔色は昨日よりも悪い気がしてならない。食事を完食するまでにも時間を要しているから体調が悪いのは確かである。 「トラ、本当に大丈夫?」 「瑠奈が俺の布団で一緒に寝てくれたら直ぐに良くなるかもしれないな」 「ね、ねね!?」 「そろそろ花嫁修業をしてもいいと思うが?」  体調が悪いというくせにこういう悪知恵は働くらしい。弱みに漬け込んで誘いに乗らせようという魂胆が見え見えだ。瑠奈が反応するよりも先にミレイナが声をあげる。 「衰弱してるトラ様の寝込みを襲うなんて、やっぱり人間は最低!」 「襲うって……私はまだ何も言ってないのに」 「"まだ"ってことは"これから"するってことじゃん!」  何故そういう解釈になるのだろう。言葉の綾から生まれる関係破綻は修復に時間がかかりそうである。 「心配かけてすまない。今日は一足先に部屋へ戻るよ。バァバ、離れの食器だけ下げてもらうよう頼む」  弱々しく言うとまだおかずの残っている皿に敬意を込めて両手を合わせ黙祷した。そして、料理を作ったバァバにも感謝の言葉を伝え、食べ残しは明日の朝食べるからと冷蔵庫にしまい部屋へと戻っていった。
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