神様に求婚されました

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「人間はこの石すら持てないというのに、不思議な人間がいたものですねトラ様」 「俺の嫁だからな」 「だから嫁じゃないってば」  褒められているのに素直に喜べず瑠奈は頬を膨らませた。その頬を包み込むようにしてトラの両手が滑らされる。 「瑠奈はもう少し我儘を言ってもいいんだよ」 「私の我儘が誰かの負担になるのは嫌だから言えないよ」 「俺は大歓迎だけどね。瑠奈が俺に心を開いてくれる日が楽しみだな」  他人に期待をしても裏切られるだけ。自分の身は自分で守らなければならないのだから、トラを頼ることもきっとない。 「陽も沈みかけているし、そろそろ行こうか」 「行こうって、どうやって?」  見渡しても先ほどと景色は同じ。夕陽に照らされる街並みが茜色に染められ絵画でも観ているような気分になる。 「祠の周りをよく見てごらん」  言われた通りに視線を足元へ滑らせる。湿った土の先、祠の左脇には崖下へ向かって線路のような落書きが伸びている。先ほど周囲を確認した時はこんなものなかった気がする。 「道がなければ作ればいい」 「え?」 「人間はそこにあるものしか見ようとしないからね」  言われて素直に頷いたのはその言葉が正しいと思ったからだ。探求心というものを無くしてどのくらいが経っただろうか。人の目を気にして生きてきたせいで視野が狭くなっている。
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