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「この道は石を積み上げなければ現れない仕様でね」
「そうなの?」
「住人が道を渡り切ったら自然と消える」
しかし、落書きの向かう先は崖。滑落することしか考えられず拳を握る。それを察してかトラが瑠奈の手をぎゅっと握るのだ。
「俺も一緒だから大丈夫だよ」
トラに触れられると、不思議と気持ちが軽くなるのはなぜだろ。これも神様の成せる技なのだろうか。「ありがとう」と言えば、トラは優しい声色のまま言葉を続けた。
「今から源がひとつ石をあちらに転がすから見ていてごらん」
トラの合図で源さんは石を転がし始めた。コロンと転がる石は崖の狭間で忽然と姿を消す。崖下に転がった音は聞こえない。
「石が消えた!」
「俺達がここを渡り切ったら石があるはずだよ。無事渡ったことを知らすために、また石を源の方へ戻す約束になっている」
「なるほど」
「源、あとは頼んだよ」
「かしこまりました」
瑠奈をエスコートするようにトラはアパートのある場所まで伸びている線の上に立つ。今の気分は線路を走る列車のようだ。
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