神様に求婚されました

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「源に石を戻してあげなさい」 「うん」  視線の先にはまだ奥まで続く広緑があるのに、転がした石は落書きの端で消えた。そこがこちらとあちらの境目なのだろう。 「あちらの世界へ戻る時は、この道を戻ればいいよ。こちらの線は消えないからね」 「じゃあ、源さんはお一人でずっとあちらに?」 「そうだよ。心配か?」  瑠奈はゆっくりと頷く。もともと虎ノ崎神社に人はいないから孤独を感じているかもしれない。私が孤独を感じていたように源さんもきっと……。 「瑠奈は昔から優しいな」 「昔から?」 「いや……。源はまたたびが好きだから、たまに土産を持っていってやるといい」 「うん!」  まだ繋がれたままの手を意識する間もなく、トラは竹林の小路を進んでいく。次第に開けてくる景色。視界に飛び込んできたのは老舗旅館のような建物だった。門構えも重厚感があり、アパートという印象は受けない。ただ、建てつけられた木製の看板に「スナック虎」と書かれていて、外観と建物名が一致せず瑠奈は小さく笑った。
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