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「どうかしたのか?」
「このアパート名ってトラが付けたの?」
「そうだよ。人間は夜になるとスナックで鬱憤を晴らすらしいから、思いを溜めぬ場所という意味を込めて」
「ふふ、ちょっと意味合いは違うけどトラが優しいのはよくわかった」
すると、こちらへ向かっていくつかの足音が聞こえてきた。どれも小さい音だけれど、軽快なステップを踏みながら足音の主は現れる。
「お帰りなさいトラ様!」
小学校低学年くらいの子どもが三人、トラの足に抱きついた。トラも子煩悩のように優しい眼差しで頭を撫でている。
「今日はどこへ行かれたのですか?」
「奥地にある滝まで行ってきたよ。君たちのようにまだ小さい動物もたくさんいた」
「もっと聞かせてトラ様」
トラの話に瞳を輝かせて言う子ども達も源さんのように人間とは異なる部分がある。ひとりは気持ちばかりであるが黒色の翼を生やし、ひとりはうさぎの耳を、もうひとりはリスのような縞模様の尻尾を小刻みに揺らしている。
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