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「大丈夫。瑠奈はひとりじゃないよ」
「トラ……」
「暫く風当たりは悪いかもしれないが、ここには必ず誰かがいる。何か困ったことがあれば俺に相談するんだよ?」
神様だからここまで優しい心で接してくれるのかもしれない。でなければ、大事な仲間の遊び場を掻き乱す人間を許しておかないと思うから。
「トラ様を呼び捨てにするな、人間の女!」
「へっ、あ、ごめんなさい」
「あと人間くさい!」
「それは私に言われましても」
前腕を鼻に近づけて嗅ぐけれど、柔軟剤の匂いしかしない。すると、トラが思い付いたように「あ!」と声をあげるのだ。
「トラ?」
「人間くさいなら、こちら側の匂いにすればいいと思ってね」
「それって、どういう……」
言葉の途中で重なる影。それは、スローモーションのような出来事だった。ゆっくりと瞼を閉じるトラ。瞼を閉じると同時に降ったのは――
「――っ!?」
「これで少しはマシになるだろう」
「な、ななななにを」
「本番は両想いになるまで我慢するよ」
「そういう問題ではなく!」
頬への優しい口付け。驚きを隠せないのは瑠奈だけではない。子ども達も顔を真っ赤にさせて魚のように口をパクパクさせている。
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