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「トラ、どこか具合悪いの?」
「そんなことより瑠奈。材料は全て人間界のものだし、バァバお手製だから味の保証はするよ」
「また無視ですか」
「では、自己紹介は食後にして、冷めないうちにいただこうか」
花嫁候補にしてくれるわりには隠し事をしている。壁を作られてしまっては入り込めない。
何事もなかったようにトラが両手を合わせると、皆も同じように手を合わせる。こういう景色を見るのは両親が亡くなって以来かもしれない。「いただきます」と声を合わせてお箸を持ち、それぞれが好みのものをつまんでいく。
ここ最近はカップ麺で済ますことが多かったし、誰かと食事を摂るのもどれくらいぶりか思い出せない。職場でも居場所はなくて非常階段で昼食を摂っていた記憶もまだ新しい。
「口に合わないか瑠奈?」
「え?」
トラの指先が目尻に触れ、悲しい記憶が溢れ始めていたことに気づいた。視界が歪んでいたのはこのせいだったのか。
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