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「ううん、とても美味しいよ」
「なら、どうした?」
「誰かとご飯食べるの、久しぶりだから」
持っていたお箸を箸置きに置くと、皆も同じように手を止めた。人が真面目に話している時は耳を傾けるといった習慣がついているのだろう。トラの器量がうかがえる。
すると、ルキが右手を挙げた。
「ごめんなさいお話し中。トラ様、おしっこ行きたい」
「行こうか。直ぐに戻るからね、瑠奈」
子煩悩な父親という言葉がピッタリだと思った。先に食べているよう告げてルキと共に食堂を出ていく。そして、人間嫌いのあやかし達の中に取り残される瑠奈は窮屈さを感じていた。置かれた箸はまだ持たれない。
「ねぇ、なんでトラ様に優しくされてるの?」
「え?」
「どう見ても普通の人間だし、トラ様をどうやってたぶらかしたの?」
ミレイナが頬を膨らませると食堂の気温が一気に下がる。季節はまだ春だけれど、寒が戻ったようだ。ミレイナの両手が触れているテーブル部分から徐々に凍っていく。
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