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「料理が冷めてしまうよ。食事だけは楽しく美味しくいただきたいという俺の願いを忘れたのか?」
トラは安らげる場所を提供したくてこのアパートのオーナーをしていると言っていた。人間嫌いのあやかし達のためにそれをしているのだとしたら、やはり人間がここに足を踏み入れるべきではないのだと思う。
「私も人間が嫌いです」
「瑠奈?」
「でも、そう思う私はもっと嫌い」
ぎゅっと作る握り拳をそのままゆっくりとほどいていく。もうこれが最後と思い伝えたいことを言葉にすることにした。
「十歳の時に両親を事故で亡くしてから、誰かを大切に思うことが怖くなったの」
「なぜだ?」
「いつか別れは来るものだけど、大切にしていた人との別れはとても苦しいから。だから一人になる道を選んできた」
恋愛だってそうだ。五年前まで付き合っていた彼も、大切な存在になるのが怖くて別れを切り出した。彼には友達も多く疎外感を覚えていたから、比べてしまう自分も嫌だったというのが正しい。
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