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「何か辛いことでもあったのか?」
あまりにも優しい声がスッと心に入り込んできて視界が歪んできてしまった。仕事ではいつも怒号を飛ばさればかりだったからかもしれない。
「どうしてそう思ったの?」
「拗ねた子どものような顔をしていたから」
それは無意識に取った表情だったのだと思う。神様に願えば幸せが訪れるという迷信。それは迷信に過ぎないのだと言い切れるほど、忘れられない過去がある。
着物の帯に置いていた目線を瑠奈はゆっくりと動かしていく。すると、磁石が吸い付くように漆黒の瞳と重なった。
「俺で良ければ、話を聞いてやる」
「上からだね」
「なら、一人言として聞いてやる」
グシャグシャと前髪を乱されたけれど、不思議と嫌な気はしない。観念したように頷けば、彼は大きな手を身体の横に戻し、それを合図に会話は始まった。
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