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「トラ以外の住人は普段は何をしてるの?」
「俺の手伝いだよ。神社のない地域もあるから、そこまで足を運んで願いを聞き受けているんだ。もちろん俺が管理できる範囲の地域だけだけどね」
「皆も願いを叶えられる?」
「いいや。叶えるに値する願いを持ち帰って報告することになっていてね」
人間嫌いというわりに願いの手助けをしているとは何とも不思議なことである。それを察してかトラが口を開いた。
「俺の仕事を手伝うというのがこのアパートに住む条件なんだ」
「それも恩を返すのと関係ある?」
「さすが瑠奈だね。ここの住人たちは人間に酷く傷つけられていたから、安らげる場所を提供する代わりに仕事を手伝ってもらっているんだよ」
「私みたいな人間が来ちゃったら契約違反になるんじゃ」
「優しいね、瑠奈は」
言葉を言いながら夜空に視線を滑らせるトラの瞳に星が瞬く。ここまで美しい瞳を見たことがない。悪しき物をその瞳に映しても、直ぐに浄化されてしまいそうなほど澄んでいる。
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