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「瑠奈は、どうして"嫌い"という感情が生まれると思う?」
「うーん。嫌なことをされたり危害を加えられたりしたら、とか」
捉え方にもよるけれど、不快に思う言動があればそれはもう立派な理由になる。職場がまさにそれだった。一度標的にされたら新しい標的が現れるまで嫌がらせを繰り返される。退職後の新しい標的が誰かは分からない。後釜で同じように苦しんでいる社員がいると思うと息苦しくなった。
「でもね瑠奈。嫌だと思う基準はそれぞれだけど、そこに至る前には少なからず"相手と歩み寄りたい"という気持ちがあるはずなんだ」
「歩み寄る……」
「だから嫌なことをされたら"嫌い"認定をしてしまうんだ。本当はもっと分かり合いたいのにって。そこで壁を作って後に引けなくなる」
ボヤ騒ぎがいい例だ。火の気が立ち周囲が騒ぎ立てる光景に面白みを覚え、それがエスカレートしていけば大火事になる。気づいた時にはもう全て失っているのだとトラは続けた。
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