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「私ね、親がいないんだ」
十歳の誕生日に瑠奈の両親は事故で亡くなった。誕生日ケーキを持ち帰っている途中だったそうだ。友達と公園で遊んでいた時に近所の人が血相を変えて飛んできたのを、今でも鮮明に覚えている。公園を飛び出してからの記憶は曖昧だ。
「私の誕生日に、事故で死んじゃって」
それからは身寄りもなく親戚夫婦の家に預けられた。「本当の娘じゃないし」という言葉をよく耳にしていたから、甘えることを諦めて代わり映えのない毎日を送る日々。我慢することには慣れていたし、今までも何とかやってこられた。
「はぁ、なんであんな所に就職しちゃったんだろ」
「あんな所?」
「私ね、ホテルで働いてたの。でも、パワハラが酷くて」
耐えかねた同期も立て続けに退職し、後から入ってきた後輩も次々と退職。残された瑠奈は永遠の新人扱いだ。おかげで「こんなことも分からないのか」と怒号を飛ばされる日々。「はいはい。今やろうとしてたとこなんだけど」と心で呟いたつもりが唇から飛び出していたらしい。
悪態をついていたのがバレて火が点いたのだろう。窓拭きや電気の交換など、雑用業務を押し付けられるようになった。仕舞いにはマネージャーに「枕営業に興味はないか?」と訳のわからない誘いを受けて往復ビンタをしてやった。その後、退職に追い込まれて今に至るというわけだ。
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