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見え始めた心の傷
「朝だよ瑠奈」
微かに聞こえる声はとても穏やかだ。重たい瞼をゆっくりと開けると目の前に影が移る。怖いという感情を抱けないのはまだ寝ぼけているからなのかもしれない。
「瑠奈、起きて」
「ふぁ……だれ?」
「寝ぼけているんだね。では、目覚めのキスをしてやろう」
寝ぼけ眼を擦る手を掴まれて瑠奈はハッとする。視界がクリアになったというものあるけれど、寝起きに男性に迫られるというのは経験したことがない。
「だ、だめー!」
全身の力を額に込めて目の前の人物に頭突きを食らわせると額に痛みが走る。まだ両手は掴まれたままだ。
「瑠奈の愛は随分と激しいね」
「愛じゃない!」
「元気で何より」
温もりは離れていくけれど、警戒心を解けない瑠奈は構えのポーズを取った。
「勝手に女の子の部屋に入っちゃだめだよトラ」
「ノックはしたよ」
「返事をしてません」
「返事がなかったら心配になるだろ。やむおえず取った行動だから俺は悪くない」
小さな子どもが拗ねたようだ。自分の行動を正当化するトラに言い返す元気もまだ湧かない瑠奈は、布団から抜け出る。カーテンの隙間から差し込む朝陽はいつになく爽快に感じた。
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