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「あれ、私の荷物がある」
「つい先ほど運んだよ。女性にしては珍しく荷物が少ないな」
今思ったけれど、下着も全部持ってきたに違いない。神様相手は全てを知っているのだから、下着を見られたくらいで羞恥心を抱いても仕方がない。諦めのもと瑠奈は言葉を紡いだ。
「思い出が残りそうな物は手元に置いておきたくないから」
「なるほど。なら、ここで思い出を作ればいいさ」
ふわりと頭に乗せられるトラの手は相変わらず優しい。昨日だけで一年分働いたのかというくらい重い身体をゆっくりと動かしていく。
「玄関の番傘も埃が目立ってたし、今日は掃除の日にするね」
「助かるよ、ありがとう」
トラは今日も漆黒の着物を金帯で締めている。着物姿がここまで似合う男性は初めて見た。
「そんなに俺を見つめて誘ってるのか?」
「っ、バカ!」
勢いよく投げた枕はトラの手によって止められしまう。その枕を静かに布団に置くと、トラは小さく笑うのだ。
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