見え始めた心の傷

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「お気をつけて」 「うん、行ってくる」  ふわりと頭に乗せられる手で全てを許せてしまう。それからトラは誰よりも早く食堂を出ていき仕事へと向かった。取り残された瑠奈は気まずい雰囲気の中、自分が成すべき仕事のことだけを必死に考える。 「クレハさん、洗いものは私がします」 「当番で決まってるんだから邪魔しないで」 「着物が汚れてしまうのでダメです。その当番は今日から私がお引き受けいたします」 「貴女が洗ったお皿でご飯を食べろって言いたいのかしら?」  悪意しか感じない変動に眉がぴくりと動く。人の良心に牙を向ける歪んだ性格を叩き直してやりたい気分だ。人間嫌いとしては当然の反応だけれど、瑠奈も負けてばかりではない。
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