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癒える心と不吉な予感
「ごほっ、ごほっ」
「トラ大丈夫?」
「大丈夫だよ」
最近のトラは夕食を終えて仕事に出掛けることも多い。そのせいなのか体調が優れないようで、こうして咳をすることが増えてきた。
「やっぱりお願いが少ないから?」
「それもあるけど、季節の変わり目というのもあるかな」
季節の変わり目というには中途半端すぎる六月。雨が降ることも多く湿気が肌にまとわりつく嫌な季節になった。そして、トラと瑠奈の会話に水を差すのはエレミィである。
「人間がこのアパートに長居してるからじゃない?」
本来ならば苛立ちを覚えるところだがトラの体調を見ていると納得してしまう瑠奈がいる。以前、人間が願わなくなったせいでトラも体調を崩すことが増えたとマオが言っていた。ここまで人間に関わることも今までなかったろうし、全ての元凶は自分なのかもしれないと唇を固く結ぶ。
「いつまで目くじら立ててんだよ、エレミィは」
「ふんっ。ショウキも人間の女なんかにデレデレしちゃってバカみたい」
「デレデレなんてしてねぇよ!」
「してますー」
まるで恋人の痴話喧嘩。このやり取りに瑠奈も頭を痛める。あれから他のあやかし達との距離は縮まっていない。離れのあやかしとも会えていないし、掃除や書類整理に切れた電球交換等の管理人業務をそつなくこなしているだけだ。
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