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あやかしは人間が嫌いらしい
「ここが管理人室だよ」
木造建築のアパートは少し湿っぽい香りがした。玄関というには少し広し広い作りで石畳になっている。両サイドには朱色の番傘が飾られているけれど、元はもっと鮮やかな色だったであろう傘には埃が積もっているため薄汚れて見えた。
「今は書類が山積みだけど、一応ここから住人の出入りを確認できるようになっているからね」
管理人室は帳場といったところだろうか。来訪者がわかるよう広めに作られたカウンターには大量の書類が積み上げられている。
「これは……」
「書類をさばくのが苦手でね」
「そういう問題じゃないような」
ホテルでも書類の量は膨大だったし、これは腕の見せ所かもしれない。
「住人についてはそこの台帳にリスト化してあるから見ておくといい」
「ありがとう」
ファイルに挟まれている和紙には号室の下に住人の名前が記載されていた。先ほど会った三人の名前ももちろんある。空き部屋もあるから増えることもあるのだろう。
「トラの名前がないけど、何号室?」
「おや、夜這いでもしてくれるのかな?」
「もう、違うってば!」
「あはは、冗談だよ。俺は離れで寝泊まりしているよ」
台帳を一ページ開くと離れの欄にトラともう一人の名前が記載されていた。何故か文字が滲んでしまっていて名前を読み取ることが出来ない。
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