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「せんぱーい!!」
太一の声と共に背中に衝撃が走る。
口に入っていたパンがのどに詰まりむせそうになる。
背中から抱きつくような形のまま太一が俺の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
誰のせいで喉を詰まらせているのかと軽く睨みつける。
太一はお構いなしにニコニコと笑いながら空いている隣の席に腰を下ろす。
前までは上級生の教室に入るのには抵抗があったようなのに今日は珍しい。
「なんかあったの?」
今まで避けてきたいたことをするくらいには急用なのかもしれないと思い太一に尋ねる。
太一はきょとんとした顔をしながら「なんもないっすけど?」と言ってくる。
じゃあ何しに来たんだよ。と言う前に駿が口を開いた。
「俺が後輩ちゃん呼んだんだよ。一緒にご飯食べましょーって。」
太一と駿が目を合わせながら笑いあう。
自分の知らないところで何か企んでいるような不信感と昨日とは全く別人のように今まで通りの太一を見て安堵する自分がいた。
「じゃあ、後輩ちゃんは元々陸上やってたんだー。」
駿と太一の会話をただ頷きながら聞く。
「まぁ、結果でなくて辞めちゃったんすけどね。」
笑っているのにどこか寂しそうに見えて頭を撫でてやりたくなる。
弟がいたらこんな感じなんだろうな。
三人兄弟の末っ子として育ってきた自分としてはパシリにされ命令されるのが日常だった。
太一みたいな弟がいたら一緒に遊びに行って悩み聞いてやって可愛がってやんのに。
駿と太一のやり取りを見ながら全く別の事を考えていた自分がいた。
「駿さんって兄ちゃんみたいですよね。面倒見良いし頼りがいがあって。」
太一の言葉に我に返る。
今ちょうど太一の兄になりたいと考えていたのに駿の方が兄に向いているとは心外だ。
「こいつはやめておけ。駿は意外と薄情だし、冷たいし、足遅いし…。」
他にも何か言ってやろうと思いながらも言葉が思い浮かばなくて黙りこんでしまう。
駿は驚いた顔をして太一は声をあげて笑った。
「先輩やきもち焼いてくれたんすか?」
嬉しそうに笑いがら言う太一に必死に首を振る。
確かに兄貴の座を奪われそうになった事に対してはやきもちを妬いたのかもしれないが、きっと太一の言うやきもちの種類は違っているように思えた。
余計な事を言ってしまったようで駿はわざと拗ねて見せているし、太一は何度否定しても嬉しそうニコニコとしていた。
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