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「あんたが熱出すなんて珍しいわねぇ~。」
母ちゃんがおでこに冷却シートを貼りながら言ってくる。
自分でも熱を出すのは何年振りだろうか。
考えても仕方のない事を昨日さんざん考えていたおかげか知恵熱が出たのだろう。
今日は学校に行きたくなかったからちょうど良かったかも…。
寝返りを打ちながら目を瞑る。
「帰りに駿ちゃんに様子見に来てもらうからねー。」
母ちゃんの声に勢いよく体を起こして「いらない!!」と言う。
中学の時から仲の良かった駿とは母ちゃんも顔なじみで連絡先まで交換している仲だった。
「喧嘩でもしたの?」
少し楽しんでいるかのような顔をしている母ちゃんに「はよ会社行け!」と悪態をつく。
お腹が空いて目が覚める。
もう昼か。
熱のせいか立ち上がるのも億劫に感じる。
ベッドから体を起こすと良い匂いがしてくる。
母ちゃんが心配して早退してきてくれたのかな。
のんきな事を考えながらベッドをゴロゴロする。
数分後扉をノックする音に返事する。
「母ちゃ…。」
全部言う前に扉から現れたのが母ちゃんじゃない事に気が付く。
「たっ、たいっ。」
喉が張り付いたように声が急にでなくなる。
「どうぞ。」
太一は笑顔で常温のポカリを差し出す。
「体調大丈夫ですか?心配で早退してきちゃいましたよ。」
彼女のようなセリフに言葉を失う。
「病院は行きました?一応薬は買ってきましたけど。」
太一の質問に黙って首を振る。
「食欲あります?おかゆ食べられます?」
太一が料理するところなんて想像できないと考えながらコクンとうなずく。
ベッドから出ようとすると太一は手で待てをするように制す。
「一度はやってみたいっすよね。」
ニコニコしながらレンゲにおかゆを掬いフーフーと息を吹きかける。
これはまさか…。
嫌な予感しかしない状況を静かに待つ。
「あーん。」
太一があまりにも嬉しそうにするものだから断るのも悪く感じて口を開ける。
まだ熱いおかゆが口に広がる。
熱いとジェスチャーをしながら飲み込むと太一はすかさず二口目を口元に運んできた。
結局全部太一に食べさせてもらう形になった。
敗北感を感じながらも楽しそうに俺の世話をする太一を見る。
昨日のは本当に太一だったんだよな。
太一が本当に寝ていたとしたら駿が勝手に太一に手を出した形になる。
太一の俺への好意が嘘だとは考えにくい。
じゃあ、やっぱり駿の一方的な思い…。
片付けをする太一を見ながらそんなことを考える。
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