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 「さぁ、先輩!お薬ですよー。」 薬はありがたかった。 今朝飲んだ解熱剤で熱は下がりきらず薬もなくなってしまっていた。 体の節々が痛くて寝付くのも一苦労だった。 太一は薬の箱をカタカタと鳴らしながら妙にニヤニヤしている。 「水も頂戴。」 太一に言うも箱を目の前に持ってくるばかりで動こうとしない。 「俺、水無いと薬飲めないんだって。」 だるい体を起こしながら薬の箱を受け取る。 随分大きい薬の写真だな。 そう思いながらボーッとする頭で裏面を見る。 何錠…。 説明文と太一の顔を見比べる。 「ほら、座薬の方が効きが早いって言うじゃないですか。」 いつもの純粋無垢の笑顔とは違い下心が漏れだしそうな笑顔にため息が漏れる。  手伝うと言う太一を部屋から追い出し薬を取り出す。 説明書に目を通しお尻に入れやすい格好を考える。 必然的に四つん這いに近い格好になる。 薬を片手にお尻に当てる。 薬がヌメついて手から落ちる。 モタモタとしているうちに頭は朦朧としてくるし薬は溶けてきてしまいベッドのどこかへ消えた。 頭をベッドにつけ膝を立てパンツを膝まで下した状態で泣きそうになる。 俺は座薬も入れられないのか…。 このまま高熱で死ぬのかもしれない…。 だんだんと弱気になってくるのが分かる。 「太一…。」 聞こえないだろうと思いながらも名前を呼ぶと直ぐに扉が開かれる。 「うわっ!先輩!!誘ってるんすか!!」 太一のバカな発言にも返す言葉がない。 ただ情けなくて涙がこぼれる。 「入れられない…。」 お尻を出したまま後輩に向かって何を言っているのだろうと思いながらも涙は流れ続けた。 グスグスと鼻をすする俺を慰めるように太一が頭を撫でてくれる。 妙な安心感が俺を包む。 「だから手伝うって言ったのに…。」 嬉しそうに薬の箱から新しい座薬を取り出す音がする。 「じゃあ入れますよ。」 恥ずかしさもあったがそれ以上に熱にうなされていた。 ヌルッと先が入ってくるのが分かる。 気持ちわるっ。 全部入っただろうに太一は手をどけようとしない。 「もう、いいだろ。」 パンツをあげようとする手を太一に止められる。 「手離すと出てきちゃうんすよ。だから少しの間このまま我慢です。」 確かに説明書に書いてあった気もする。 仕方なく太一の言う通りに従う。 ツプッ。 薬は全部入ったはずなのに更に何かが入り込んでくる感覚が襲う。 もがくように動こうとするが上手く体が動かない。 「先輩。動くと出ちゃいますって。」 明らかに楽しんでいるような声の太一を恨む。 「第一関節まで入っちゃいましたよ。分かります?」 口を結んで必死に我慢する。  一分もすると太一は指を抜き取った。 俺は我慢できた自分を褒めてやりたい気持ちでベッドに横になる。 「だから先輩!誘わないでくださいって!!!」 太一の言葉に自分が下半身丸出しでベッドに横になっていることに気が付く。 だるい体を動かしパンツを引き上げる。  その後は薬が効いたのかどっぷりと眠りについてしまった。 体のだるさもなくなりおでこには取り替えられたであろう冷却シート。 枕元にはすぐに飲めるようにポカリが置いてあった。 今更座薬を入れられた事を思い返して顔が熱くなる。 熱にうなされていたからといって恥ずかしすぎる。 トイレに起きるとテーブルに書置きが残っていた。 『冷蔵庫にゼリーとプリンあります。カギはポスト入れておきます』 太一の字を指でなぞる。 世話好きだな…。 おかゆを作るときに使ったであろう食器や鍋も綺麗に洗われていた。 鍵をポストから出しテーブルに置く。 母ちゃんから駿に渡して、駿から太一に渡したんだな。 一連の流れを想像してふと疑問に思う。 駿が太一の事を好きなら太一に鍵なんて渡すか? 熱の下がったばかりの頭では答えが出ることはなかった。
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