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 「駿。正直に話してくれ。お前は太一が好きなのか?」 周りに聞かれないように駿に顔を近づけて真剣に聞く。 もしそうであっても俺たちの友情は壊れないよな。 そう願いを込めて駿に問いかける。 駿も珍しく真面目な顔で何かを考えている。 二人の間に沈黙と緊張が走る。 「吉平…。」 駿が口を開いたので、ギュッと拳を握る。 「ないから。」 駿の答えを聞いて握った手の力を抜く。 あからさまにホッとしている自分に気が付く。 いや、これは友人と後輩との三角関係を逃れられたホッだ。 自分に言い聞かせる。 「じゃあ、太一とは何の話を…?」 少し突っ込み過ぎかなと思いながらも聞かないと、またモヤモヤしてしまいそうで聞いてみる。 「んぁー。実は俺の気になってる子が後輩ちゃんと同じクラスなんだよね。だから情報交換?」 駿の口から気になる子がいると言う話を初めて聞いて驚きが隠せない。 平静を装うように「へー」と言ってみるが見事に声が裏返る。 「部活の後輩だよ。」 少しやけになったように駿が言う。 「あれっ?駿って何部だっけ?」 いつも一緒にいるのにそんなことも知らない自分に驚く。 「陸上。」 言われてみたらそんな気がしてくる。 体育の時のタイムは覚えていないが走るフォームが綺麗で見とれた事を思い出す。 初めて聞く駿の恋バナに興味はあるものの本人があまり乗り気ではないようなので深くはツッコまないでおく。  「そんなことより、昨日は大丈夫だったの?」 急に昨日の話を振られて飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。 俺のリアクションを見て何かを悟ったようにニヤニヤと笑ってくる。 「かわいい後輩ちゃんにちゃんとお世話してもらったんだ?下のお世話でもしてもらったの?」 下品な駿の言葉に殴り掛かりながらも、当たらずも遠からずな話に冷や汗が出る。 寝る前に太一には座薬の話は他言無用とメッセージを送った。 不細工な犬が親指を立てたスタンプが送り返されてきて増々不安になった。 昨日の事を何度も思い返しては顔が熱くなる。 今日は太一と顔を合わせたくない…。
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