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 休みの日に太一と出かけるのは初めてだった。 最初こそ「デートですね!」なんて冗談を言っていた太一も甘い雰囲気になりそうもない事に諦めたのか通常通りだった。  一番近い映画館に向かうのに電車に乗ることになったのだが異様に混んでいる。 駅のアナウンスを聞くと他の線で事故があったらしく迂回する人たちが駅に溢れているとの事だった。 電車はすぐに来たがホームにいる人を全員乗せることなく発車していく。 結局電車を三本見送ってからやっと乗り込むことができた。 乗った駅から五駅行った所で下車するので満員電車も少しの我慢だ。 身動きも取れないほどにギュウギュウになった車内の中、距離が近すぎて太一と会話をすることもできない。 太一の方が背が低いので息苦しいだろう。  駅に停車する度に降りる人と乗る人に流される。 太一と離れてしまったが降りる駅は知っているので大丈夫だろう。 ふと太一の方を見ると珍しく俯いている。 元気が取り柄の太一も満員電車はさすがにきついか。 それとも風邪が治りきっていなくて本調子ではないのか...。 そんな風に思い太一が顔をあげた瞬間に「大丈夫か?」と言えるように太一の方を向いておく。 しばらくの間、太一の方を見ているのにも関わらず一向に顔を上げない。 心なしか顔色も悪く感じる。 本当にヤバいのか? 目的の駅まで後二駅となったところで太一に近づこうともがく。 少し距離は近づいたものの手の届かない距離。 太一も身をよじるかのように動こうとしている。 太一の異変に気が付いたのはそれからすぐだった。 鞄をお腹の辺りで両手で握る手を撫でるように他の手が太一の手を這う。 えっ? 目の前で起きている事が目に入っているのに頭が追い付かない。 ただ太一は嫌がってる。 恐がっている。 そう思うとジッとしていられなかった。 無理やり太一の傍に寄る為に人ごみを押し分ける。 太一は身を守るように固まったまま動けないでいる。 「太一っ!」 傍に行けないのであれば声だけでもと思い声をあげる。 俺の声に気が付いたのか顔をあげる太一。 かわいそうなほど顔色は悪く眉を下げて今にも泣きだしそうな顔をしていた。 太一は俺を安心させようとしたのか情けない顔のまま笑顔を無理に作って首を横に振った。 『大丈夫』口パクで太一が言う。 そんな顔して何が大丈夫なんだ。 きっと俺も泣きそうな顔をしているに違いない。 手を伸ばしても届かず、引き寄せることもできない。 早く駅に着くことを願うばかりだった。 時折太一が体を強張らせるのが見ていて分かった。 俺は太一が不憫で見ていられなかったが、傍にいることを伝えたくて太一を見続けた。  駅に着くなり人ごみをかき分けて太一の腕を引く。 車内を睨みつけるが太一を弄んでいた人物が誰だか分からない。 とりあえず空いたばかりのベンチに座らせる。 「飲みのも買ってくる。」 そう言って太一の傍を離れようとすると太一は何も言わずにシャツの裾を掴んで止めてくる。 そりゃ、今は一人になりたくないか。 太一の隣にしゃがみ込み太一の手を取る。 満員電車の熱気に似合わず、冷たくなった太一の手を温めるように両手で握る。 「俺、ビビっちゃって声も出せなかったっす。」 まだ青白い顔をしながら太一が自嘲気味に言う。 「いいから!」 無理して明るく振舞おうとなんてしてほしくなかった。 太一が一番ショックなのは分かっている。 「おしり触られて…前も…。気持ち悪くて縮みこみましたわ。」 それでも無理して笑おうとする目には涙が溜まっていた。 握っている手も震えている。 「なにも言わなくていいから!!」 人目も気にせずにその場で太一を抱きしめた。
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